欧州のファスナー業界では、大手ファスナーメーカーが鉄鋼メーカーと連携し、低炭素排出鋼を積極的に使用する取組みが始まっている。日本ではEUへねじを輸出するためにCBAMへの対応が迫られており、環境対応で欧州が先行している感が際立ち始めてきた。
ドイツのEJOTは、鉄鋼大手のアルセロールミッタルおよび二次線材メーカーのフィンカーナーゲルと協力し、循環資源から製造されたXCarbR鋼の採用を開始する。この鋼材は、従来の製造方法と比較してCO2排出量を80%削減する特性を持ち、電気自動車のバッテリーや太陽光パネルの構造に使用されている。この取り組みは、材料メーカー、加工メーカー、最終製品メーカーが連携する初の試みであり、持続可能な製造プロセスを実現する重要な一歩となっている。
アルセロールミッタル・ハンブルクが生産するXCarb鋼は、再生可能エネルギーを利用し、循環資源を用いて製造されている。この鋼材は、フィンカーナーゲルによって加工され、その後、EJOTが冷間成形によりねじを製造する。このねじは、最終的に電気自動車や太陽光パネルの構造に使用される。この協力により、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量が大幅に削減され、環境負荷の低減が図られる。
フランスの自動車部品メーカー大手LISI AUTOMOTIVEは、同様にアルセロールミッタルと提携し、ファスナー生産等にXCarbおよび再生可能な低炭素排出鋼を使用して自動車産業の炭素排出を削減する。このパートナーシップは、LISIの2030年までにCO2排出を30%削減する目標と一致しており、最大で1万㌧のCO2削減に貢献する見込みである。アルセロールミッタルの低炭素鋼材は、高い安全性と材料性能を維持しつつ、製造プロセスにおけるCO2排出を大幅に削減することが可能だとしている。
スウェーデンのBultenも、オランダの鋼線メーカーFNsteelと提携し、カーボンフットプリントのさらなる削減を目指している。この提携により、Bultenはリサイクルスクラップを60―80%使用し、化石燃料を使用しない電力で製造された鋼線を使用することが可能となった。この鋼線は主に自動車産業向けのファスナー生産に使用され、CO2排出量が1㌧あたり300㌔㌘未満に抑えられる。この取り組みは、循環経済の実現に向けた重要な一歩となっている。
一方、日本では、EUへの輸出に際して、炭素国境調整メカニズム(CBAM)への対応が求められている。CBAMは、EU域外から輸入される製品に対して、EU排出量取引制度(EU ETS)に基づく炭素価格を課すもので、カーボンリーケージを防ぐことを目的としている。鉄鋼製のねじ・ボルト類も対象製品に含まれており、日本のねじ・ボルトメーカーは炭素排出量の報告を求められることになる。CBAMは2026年に正式発効する予定であり、現在は移行期間中である。日本のメーカーや商社にとって、CBAMへの対応は急務となっている。CBAMへの対応については、経済産業省がねじ・ボルト等におけるEU―CBAM用算定ガイドラインを同省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/)に公開している。
欧州のファスナーメーカーが低炭素排出鋼の使用を積極的に推進し、環境対応を強化している一方で、日本におけるその動きはまだ限定的だ。
今後、欧州市場におけるファスナー輸出を拡大させていくためには、CBAMへの対応が求められ、環境対応技術の導入を加速させる必要がある。また製造業全体においても欧州との競争力を維持するためには、低炭素排出鋼の使用や再生可能エネルギーの導入など、持続可能な製造プロセスの確立が重要となる。
日本の鉄鋼メーカーは、鉄鋼プロセスにおける水素還元技術や電炉による高級材の精製など革新的な環境技術の開発が進められており実用化が期待されている。
一方、現状は欧州と日本のねじ業界における環境対応には大きな温度差が存在する。日本のファスナー業界は、グローバル市場での競争力を維持し、環境規制への対応を進めるためにも、環境対応技術の導入を一層推進することが求められている。