製造業、戦争リスクの回避課題 地政学や供給網が焦点

2023年10月23日

 ロシア・ウクライナ戦争の長期化やガザ危機など世界で戦争リスクが急激に高まっている。日本の製造業はこのリスクに対してどのように対応していく必要があるのか。
 ロシアとウクライナ戦争およびガザ危機は、国際的なサプライチェーンに影響を及ぼす地政学的な緊張を引き起こしている。ここにはエネルギー、原材料、部品供給サプライチェーンの寸断リスクも含まれており、世界の製造業は今後大きなリスクに直面している。
 こうしたリスクに対してこれまでグローバル大手製造企業は、異なる地域からの部品や原材料の調達を促進し、一つの地域に依存しないよう戦略をとってきた。また供給源の多様化に焦点当てて、新たな供給先を見つけるリスク分散をとってきた。今後はさらに、地政学的リスクを考慮した安定的な供給源を選定することが重要となる。
 サプライチェーンの透明化も重要となる。これは関係するサプライヤーや輸送業者、顧客、規制当局など全てのステークホルダーに対して情報の共有を促進することを意味するが、在庫情報、生産データ、輸送情報、サプライヤーのパフォーマンスデータといったデータを収集し、分析する能力が求められる。センサーやIoTテクノロジーを活用して、在庫の状態、輸送の進行状況、生産ラインのパフォーマンスなどをリアルタイムにモニタリングする能力や、製品の起源やサプライヤー情報を追跡可能にしたトレーサビリティ性が求められる。
 サプライチェーンのレジリエンス(回復力・復元力)を向上させるために、リスク評価と対策のプロセスも強化している。これには、事業継続計画(BCP)による災害回復プランの策定や、代替の運用拠点の想定といった取組みが含まれる。
 地政学的リスクを常に監視する必要もある。地政学リスクを監視するために情報の収集、専門家や政府レポートによる評価、国や地域によって異なるリスクの評価と特定を行うことが重要だ。
 日本の製造業にとって、これら危機がサプライチェーンの再評価と多様化を促す要因となる可能性がある。
 部品や原材料の供給源が地政学的リスクにさらされている場合、企業はより安定的な供給源を探し、リスクの分散を模索するだろう。一部組立メーカーの生産拠点の国内回帰の動きもこれらリスク回避が要因のひとつとなっている。
 また、ものづくりに強みを持つ日本の製造業が、新たな技術や生産プロセスの開発を奨励する要因となり、競争力を高める可能性がある。戦争リスクによる一部国・地域の製造業の停滞にともない、代替としての日本の製造業の競争力向上の機会が生まれる可能性もある。一方で戦争リスクが国際貿易に影響を及ぼす可能性があり日本の輸出産業に影響を及ぼすマイナス要素も十分想定しておかなければならない。
 これまでも米中経済競争にともない世界の産業のキー技術となる半導体がサプライチェーンの混乱を生んだ。日本メーカーも高いウエイトを占める半導体製造装置業界ではこうした地政学リスクに対して、部品や材料の供給源を多様化し、複数の国や地域から調達するといったサプライチェーンの多様化、また生産拠点を異なる地域に分散、さらに多くの部品や材料を在庫として保有し、需要変動やサプライチェーン寸断に対応してきた。
 日本の製造業は歴史的に変化に対応し、イノベーションを進めてきた経緯がある。世界で高まる戦争リスクに対して適切な戦略をとることで、影響を最小限にとどめて、これら危機から競争力を高める機会に変える能力が求められてくる。