【特集インタビュー】育て未来のエキスパート「〝ねじと航空〟つなげたい」ねじ大学校第1期生の蕎麦田和也さん(本田技術研究所)

2023年7月31日

 (一社)日本ねじ研究協会(澤俊行会長=広島大学名誉教授、以下ねじ研)は、次代の業界を担うねじのエキスパートを養成するための教育プロジェクト「ねじ大学校」の事業を進めている。若手技術者や標準化スペシャリストを育成するねじ研初の試み。本紙は2022年9月より入学している第1期生の蕎麦田和也さん(㈱本田技術研究所)にインタビューした。
 ねじ大学校は、ねじを研究する若手を育てる大学の研究室が少なくなっていることを背景に、ねじの製造方法から設計、品質評価、締結技術や標準化等に至るまで、ねじ研が指定する講習科目を経て、次代の業界を牽引するエキスパートを育成していくための一大教育事業だ。
 学生は指定する科目を2年間で受講して必要単位を取得。更にねじ研委員会活動に参加して、認定テーマで研究、ねじ研協会誌に論文を発表する。必要単位数を取得して卒業試験に合格すると、卒業証書としてMFT(Master of Fastening Technology)の称号が授与される。
 育成コースは、締結に関するエキスパートを養成する①技術者コースと、ISO/TCなど国際標準化活動の場における日本をリードできるエキスパートを養成する②標準化コースの2種類があるが、現在は技術者コースのみの事業を進めており、24年度より標準化コースを加えた両コースを募集する予定。入学資格はねじ研の会員であることが条件となっている。
 22年度に初めて開講され、ねじメーカーや自動車関連、計測機器メーカー出身の6名で構成された技術者コースの第1期生が現在、受講を進めている。さらに現在、同会人材育成委員会のもとで第2期生の選考が行われており今年9月からの開校が予定されている。
 第1期生のひとりである蕎麦田和也さんは、㈱本田技術研究所(埼玉県和光市)で航空機の構造設計の研究開発を担っている若手エンジニアだ。22年度よりねじ研に入会して技術者コースの第1期生となった。今年度からは同会の技術研究委員会にも所属している。年度内には論文の発表も予定している。
―入学のきっかけは
 社内に航空機用ねじを専門とする部署がなかったため、自主的に専門書籍を読み漁っていた中でねじ研の存在を知った。ねじ研会員である白川敦士さん(本田技研工業㈱)からの紹介もきっかけだった。
―ねじ大学校のカリキュラムについて
 夏場は日程が過密になってしまったが充実している。例えば、衝撃荷重を受けるねじ締結体の評価手法に関する知識は航空機エンジンにも重要な要素となるが、文献が少なかったため、小林光男教授(工学院大学)による講義は非常に役立った。
―卒業後は
 (一社)日本航空宇宙工業会にねじのスペシャリストとして入会して、ねじ業界と航空宇宙業界をつなぐ役割を果たしたい。ねじ研では提案できる側に立ちたい。海外規格にも注目している。(エンジニアとして)国内トップレベルにそして世界レベルで戦えるようになりたい。
―第2期生にメッセージを
 2年の受講で終わりではなくスペシャリストを目指してほしい。また卒業後も同期で交流してつながりを持ってほしい。
―ありがとうございました。(聞き手=東京本社・大槻)
 人材育成委員会の北井敬人委員長(ケーエム精工㈱)は今後の事業運営について次のように話す。
 「第1期生は工学部出身が主だったが、第2期生は別分野からの出身や性別問わず多様な学生が揃う見込みだ。学生とはフォローアップを通して意見を聞きながら事業の改善を進めていく。学生同士の横のつながりによる今後の交流にも期待している。事業を続けていくことが大事だ」。
 必須科目のひとつである「ねじ締結技術セミナー」で教壇に立つ晴山蒼一教授(東京都立大学)は次のように話す。
 「(オンライン講義とは違い)対面講義は学生からの生の質問が飛び交う魅力がある。ねじ大学校は蕎麦田さんのような後継者を育てるのが目的だ。皆で支えていく」。
 未来の業界を担う若者が育ち始めている。第2期生が入学する23年度「ねじ大学校」は9月より開校する予定だ。