中小ファスナーメーカー、副資材の高騰がリスクに 製品価格への反映求む声

2022年5月2日

 コロナ禍経済に収束の兆しが見えてきたが、ロシアのウクライナ侵攻にともなう新たな経済リスクがファスナー業界に押し寄せている。材料高騰のほか副資材が軒並み価格上昇しており、これらを製品価格にいかに早く反映できるかが鍵となる。
 中小ファスナーメーカーでは、材料値上げにともなう価格転嫁を進めているが材料価格の改定頻度が多発している中で、自社の製品価格に転嫁するタイミングが後手に回っている状況がある。鉄鋼材料の値上げについては世界的な経済問題であり、買手のユーザー側も値上げ受入れマインドが広がっているほか、ファスナーメーカー側も値上げなしでは死活問題に関わることから価格転嫁を受け入れない取引については真っ先に手を引くケースが増えている。こうした状況にもかかわらず、価格転嫁なしに継続している取引やそれに関わる企業については逆にリスクとして捉えられる兆候も見えてきた。
 材料価格にともなう価格転嫁が進む一方で、それ以外の副資材の値上がりを製品価格に反映できていない状況が問題となっている。原油価格や資源の高騰により光熱費や石油精製品が上昇したことで、めっき、熱処理、油、段ボール、ビニールテープ、工具などが軒並み価格上昇している。これら副資材コストについては、これまでファスナーメーカーが自助努力で吸収してきており、値上げ材料として反映する慣例がなかったと思われる。「材料値上げよりも副資材の値上げがきつい。材料値上げ分の価格転嫁だけでは経費ばかりがかかってしまう」という声もあり、副資材値上げにともなうコストを加工賃等へ上乗せする必要性が求められている。
 値上げに対して、ユーザーからは製品におけるコスト上昇分を数値化した資料の提出が求められると言い、あらゆる副資材が上昇している中でエビデンスデータを提出すること自体が複雑で難しいとの声も挙がる。
 こうした状況に入る前に廃業を決めたメーカーもある。埼玉県内のファスナーメーカーでは昨年からの値上げ要請をユーザーが認めてくれない状況が続いていた。機械も老朽化する中で、オーバーホールの投資を諦めて昨年末で受注を終了した。注残の生産を終え次第廃業するという。後継者もいた企業だった。
 昨年9月に社員が新型コロナ濃厚接触者となるケースが多発して現場の繁忙を経験したファスナーメーカーでは、需要回復により昨年は売上10%増となったがこのうちの6割が材料価格の改定分だった。4月からの更なる材料価格の改定にともない自社製品の価格転嫁の準備を進めている。
 現状、材料側から来ている値上げ分の価格転嫁を99%達成したというファスナーメーカーでは、「ユーザーが値上げを受入れてくれる傾向が強い」と話す。一方でユーザーの発注ロットが細かくなっていることを指摘しており「ロットが細かくなればその分、段取りが増えて不良率も高くなることをユーザーは理解しているのか」と首を傾げる。
 取引先の都内めっき業者の排水基準違反による事業停止により、代替業者を探したりユーザーへ品質管理における変更説明を余儀なくされているメーカーもある。都内では排水基準管理の厳しさからめっき業者が減少しており、残る首都圏のめっき業者への発注が集中するケースが増えている。こうした中で、光熱費や薬剤、亜鉛などの高騰によりめっき処理の加工賃は上昇している。めっき種類にもよるが今年4月よりキロ20円以上値上がりした加工もある。
 ファスナーメーカーにとっては、こうした周辺副資材の値上げをいかに早く製品価格に反映できるかが経営を大きく左右する。業界団体が主導してユーザー業界へ窮状を訴える必要性も求められる。