関東商社に事業拠点を再構築の動き、BCPや環境整備で

2022年2月21日

 近年、関東におけるねじ商社が事業所を新築する場合、建物の耐用年数による更新だけではなくその際に震災対策をはじめとしたBCP(事業継続計画)や労働環境の整備、また移転も伴う場合は背景として住宅地の増加による周辺環境の変化やアクセスの向上を目指して移転先を選定し、事業体制の再構築や機能向上を盛り込む事が顕著になっている。
 事業所新築・移転に多い傾向としては、①本社(登記上・事務所)と倉庫(配送・物流センター)の分業、②本社は都心寄り、倉庫は郊外寄りと分ける、③以前「郊外寄り」に移転したとしても数十年を経て周辺環境が住宅地に変わる等でさらに郊外に移転する事も、④郊外寄りだとしても高速道路や幹線道路沿い、特にインター付近で良好なアクセスの選定、⑤BCPを重視して災害リスクを鑑みて土地を選定し新築や改装、⑥新築の場合も居抜き物件の改装の場合も勤務環境の向上を重視しており、元からの社員だけでなく新入社員の人材確保として世代交代も見据えている―等の点が多い。
 まず新築・建て直しが増える背景としては昭和56年6月に新耐震基準が適用され、適用直前に建てられとしても旧耐震基準の建物は既に40年が経過している。在庫するねじ製品の重量は相当なものであり、これに対応する倉庫として設計・施工されても、長年の建物にかかる負担は多大なものと考えられる。さらに阪神大震災や東日本大震災を経て従業員の安全や供給維持といったBCPの一環として地震対策を考慮して、耐用年数ギリギリになる前に進めている可能性もある。
 移転や立地で多い傾向は本社としての事務所機能は都心寄り、倉庫機能は郊外寄りと使い分ける方針だ。本社の場合、高度経済成長期以前に都心で創業したねじ商社が「創業の地、長年事業を続けた地」という想いだけでなく、仕入先・納品先(ユーザー)や取引先金融機関に訪問したり迎えて応対する、さらに従業員の通勤におけるアクセスの良さといった実用的な面もあるはずだ。
 一方、倉庫機能は郊外寄りを目指す傾向となりつつあるが、地価が安くまとまった広い土地が確保できるという面だけでは選定する事は少ない。昨今は都心から約15㌔㍍を走る外環道(東京外環自動車道)、約40~60㌔㍍を走る圏央道(首都圏中央連絡自動車道)をはじめ高速道路の拡充が進んでおり、混雑しやすい都心に向かわなくても迂回して仕入れ・納品できる事を考慮しており、インター付近が多くなっている。
 また周辺環境も重要であり、最近の移転より以前に「当時としては郊外寄り」に移転した事業所だとしても、時代を経て都市部の拡大で周辺がいつの間にか住宅地域や商業地域になっている事も多い。その場合トラックの入出庫による騒音・振動で後から居住するようになった近隣住民への配慮も求められるようになる事も移転の理由の一つだ。
 BCPでは前述の他にも地震以外に水害を想定しているねじ商社もある。東京都23区内ならば隅田川より東、さらにいえば本郷・上野台地辺りより東、また江戸川より西は海抜が低く、1947年に発生したカスリーン台風をはじめ水害リスクが高い地域として多くの自治体がハザードマップを作成しており、それを認識して移転する例もある。
 これらの傾向はねじ商社だけでなく、ばね・線材メーカー・商社も多く、今後も進むものとみられる。一方本社や倉庫を都心に残す例もあり、それは事業所数が少ない・小規模といった場合だけでなく、メインとなる大きな倉庫というものを構えずに関東圏内・全国に事業所を分散させて事業を行っている事もある。
 また新築・改装に際して出来る限り環境を良くしようという方針は顕著だ。団塊の世代(1947~49年生まれ)は既に2010年代前半に定年(60歳)を迎えているが、今後も少子化は継続的であり労働力不足が懸念され、若者が就職したくなる・離職しにくい環境整備、さらには1人辺りでこなせる業務量を増やすべくデジタル化・情報化や重量物取扱いでも体に負担のかかりにくい配慮、そして安全な職場づくりを進める傾向だ。