【鉛含有の銅合金材のRoHS規制】EUが適用除外を延長か 鉛レス材、中小切削メーカ苦慮

2021年10月4日

 鉛(Pb)を含有する銅合金(真鍮・黄銅)材料におけるRoHS2指令の適用除外品目の延長期限を今年7月21日に迎えたが、9月27日現在、EU委員会からの報告が出ていない。このため有効期限は事実上、延長された形となった。延長が今後続く場合も一般材と鉛レス材の2つの材料が共存することで、専門メーカーにとっては、加工性やクズの引取り、コスト競争力への影響など引き続き課題を抱えることになる。
 RoHS2指令では制限物質に鉛が含まれているが、快削性を向上する目的で鉛を含有している銅合金材料については、4%未満の含有まで適用除外されている。適用除外対象から外れると、これら部品を使った対象となるカテゴリーの製品を欧州向けに輸出できなくなる。世界の製造業における影響が大きいことから除外申請が出されるなどして延長が繰り返されてきた。
 再延長の期限は今年7月21日となっていたが、同日を経過してもEU委員会からの報告が発表されず、事実上、延長された形となった。今後近く、EU委員会が適用除外を認めないと決定した場合も、その時点から12カ月から18カ月まで猶予期間として適用除外が有効になると見られるが、EU委員会が再延長を決定する可能性も高い。
 期限が経過した時点で発表がないのは延長される可能性が高いとする見方がある。理由としてEUの政策課題が、鉛フリーの流れよりも新型コロナ対策やカーボンニュートラルの課題にシフトしていることが挙げられる。一方で、再延長された場合も企業側が自発的に規制を進める可能性もある。なお、圧造用に使用されるC2600やC2700など鉛が0・05%以下の線製品に本件の影響はない。
 黄銅製品メーカーではすでに鉛の代替物質として、ビスマスやシリコンを含有した材料製品を展開して鉛レス化にシフトした場合の体制を整えている。独自の鉛レス材により海外メーカーとの競争力をつけるメリットもあるという。
 鉛レス材の加工性についてはビスマスやシリコンといった快削性の代替物質を含むが、鉛入り材(以下・一般材)より加工性は落ちるため加工法の見直しが必要となる。水道バルブなど単純形状品や腕時計部品のような極小品は同等の加工が可能だが、複雑形状品や面粗度に高い精度が求められる部品は鉛レス材による加工は、まだ難しいという。
 鉛レス材の登場は大手部品メーカーや鉄材を主力に加工する切削メーカーにとってはマイナスの影響はそれほど大きくないものの、銅合金材を専門にしている中小切削メーカーの負担は大きい。見た目では判別できない鉛レス材と一般材の混在を避けるために生産ラインを別にしなければいけないといった品質管理上の制約が求められ、加工機を専用化するなどの負担がある。
 鉛レス材専用機を置いた真鍮ナットメーカーは、鉛レス化による混在防止の管理や前述のような加工性の課題のほか、切粉(クズ)の問題が大きいと指摘する。
 鉛レス材の切粉は一般材の切粉のようにクズ引取業者から高価で引取ってもらうことができず、鉄クズと同等にしか引き取ってもらえないという。このため、製品価格にクズ引取値分を反映している多くのメーカーは、鉛レス材を使用した製品価格は高価になる。一般材の切粉に鉛レス材の切粉が混在すると、一般材の切粉として引き取ってもらうこともできない。また、材料径によっては材料商社より購入できる最低ロットが大きく、量がなければ受注できないといった現状もあるようだ。
 加工性について深刻な問題を抱える真鍮ナットメーカーもある。カム機を主力にする同社ではCNC旋盤のように加工条件を柔軟に設定変更することができず、得意としてきた真鍮六角ナットの雌ねじ加工が不可能になるという。もし一般材が使えなくなると真鍮六角ナットが製造できず売上が3分の1以上減少すると危惧する。
 ユーザーの要望により鉛レス材の試作の準備を進めてきた真鍮部品メーカーでは、材料を一部購入して、主力のカム機による試作までは到達できたものの、材料の高騰で案件が立ち消えてしまった。
 一般材の切粉と鉛レス材の切粉ではリサイクル工程が違い、鉛レス材の場合は不純物を取り除くための製錬が必要になり、カーボンニュートラルの観点からは逆行する矛盾も垣間見える。鉛レス材の再生技術は確立されているものの、切粉を混在することができない一般材と鉛レス材の2つが流通している中で、クズ引取業者が両者を同一に扱うことができない課題を抱えている。
 近く発表されるであろうEU委員会からの鉛を含有した銅合金材料における適用除外に関する報告が注目される。適用除外が再延長された場合でも鉛レス材のニーズが一部で増えてくる可能性もあるが、一般材による製品よりも価格が高くなることが予測できる。一般材の製品と比較して鉛レス材の製品が想定以上に高くなることを買い手側は認識する必要がありそうだ。