2025年の経済環境における大きな変化として、昨年の米大統領選挙で勝利した共和党のドナルド・トランプ氏が2期目の新政権を1月20日に発足させる点が挙げられる。保護主義的傾向の強いトランプ氏が掲げる輸入品関税引き上げなどの強硬な貿易政策は、ファスナー業界にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
トランプ氏は中国やメキシコからの輸入品に高関税を課すことを公約しているほか、全世界の輸入品に対して一律で10~20%のベースライン関税を賦課することを提唱しており、これが実現すれば日本からの輸入品にも同様の関税が課される可能性がある。関税引き上げによって、米国に製品を輸入する企業は関税負担分を転嫁することになり、インフレの発生リスクや物価高による消費の冷え込みが懸念されている。特に、自動車部品や家電製品など関税負担が重くなる商品は市場競争力を失う危険性が指摘されている。
北米エリアでは、メキシコに生産拠点を持つメーカーに影響を尋ねたところ、予想よりも悲観的でない反応が多かった。関税問題は一企業の力ではコントロールできないものであることに加え、同様の状況を前トランプ政権時代にも経験し乗り越えてきた自負が垣間見える。ユーザーの現地調達の要望に応じてグローバル展開を進めてきたサプライヤー企業にとって、今や現地調達という段階を超え、柔軟な適材適所の施策が重要になると考えられている。その中には現地国の政策の影響への対応も含まれるとみられる。
米国内に生産拠点を持つメーカーでは、同拠点での量産品生産に加え、これまで日本から輸入していた特殊品の一貫生産を行うための設備投資を計画している。現地調達ニーズへの対応を強化するだけでなく、関税対策を含め、トランプ政権下で米生産拠点の優位性をさらに強める狙いがうかがえる。
各国の製造業界の景況指標となる日本の工作機械受注を見ると、米国市場は前月比35・3%増、前年同月比0・3%増の235億8000万円と、今のところ大きな減速感は見られない。自動車、電気・精密、航空・造船・輸送用機械向けともに比較的堅調な数字を示している。米国製造技術協会(AMT)が発表した10月分のデータでは、長期的な減少傾向にあるものの、コロナ後のペントアップ需要が一服し正常化しているとの見解が示された。特に航空宇宙関連は最高レベルに達している。これらの動きは、今後の米国市場の安定性を図るうえで重要な指標となるだろう。
交渉や政策にビジネス取引の手法を取り入れるトランプ次期大統領の政策は流動的で不透明な点が多く、各国や企業にとって就任後の対応が重要になると考えられる。