日本国内には、「○○のナイアガラ」「○○のマチュピチュ」といった世界各地の絶景をイメージした観光名所が数多くある。実際は似て非なるものがほとんどだが、本物の疑似体験と割り切ればそれはそれで楽しい。しかし「○○のチベット」はどうだろう。これはチベットの地理的位置になぞらえ、交通が不便で発展が遅れた地域を指す蔑称で、イメージはよくない。今では死語になりつつあり、山々に囲まれた地域は○○のチベットではなく、「○○のスイス」としてアピールしている。
同様に地域名を付けた揶揄表現に「ガラパゴス化」がある。元はビジネス用語だが、国内市場限定で製品やサービスが進化した結果、外国製品と互換性を失い、孤立して取り残されることを指す。ダーウィンの進化論におけるガラパゴス諸島の生態系になぞらえた警句だが、外国から低価格で汎用性のある製品や技術が導入されれば、最終的に国内製品は淘汰されてしまう。ガラパゴス化には自虐的なニュアンスも含まれるが、こちらは死語にならず生き続けている。
日本のガラパゴス化の代表格が携帯電話、いわゆる日本独自規格の「ガラケー」だ。スマートフォンが普及する前、通信機能だけでなくカメラを内蔵し、画像やメール送信ができる機能は画期的なものだった。「iモード」に代表されるインターネット接続機能も、日本の技術力を世界中に知らしめた。テレビが映る機種も現れ、スマホの機能を先取りして隆盛を極めたが、アップルのiPhoneなど「黒船」の到来で、絶滅危惧種になってしまった。
バブルが崩壊した原因やその責任を問われないまま、30年以上が過ぎた。日本の製造業は、競争上の優位性なら世界でも高いはずだが、市場での優位性を失い新しい産業も興らず、自動車を除き世界市場では敗退続きだ。内装部品としては活用されても、完成品としては後塵を拝している。そのため製造業もガラパゴス化し、グローバルな競争に勝てなくなっている。
その日本の状況に似てきたのが中国だ。この国もまたガラパゴス化が進んでおり、フェイスブックやX(旧ツイッター)といったSNSを認めず、国家的ファイアウオールを構築している。一方で中国版LINE「微信(ウィーチャット)」やQRコード決済の「アリペイ」など、独自のネット環境を発展させてきた。
電気自動車(EV)も世界の主な企業が戦略転換を図るなか、中国の比亜迪(BYD)は好調を維持している。新興国への売り込みも強める構えで、EV市場は中国勢が独走する勢いだ。一方で日本など外国企業の中国離れも目立ち、ガラパゴス化の道を歩む可能性も否定できない。中国経済の「ガラパゴス大陸化」は世界を混乱させる。