新米の季節となって忘れられていそうだが今夏は一時的に米不足が起きた。消費者が焦燥感に煽られた面もあるが、食料は重要資源と実感させられる。そして新米が流通したものの従来の1・5倍未満の範囲で値上がりしている。要因は昨年夏の猛暑やコロナ禍明け・インバウンドでの需要増だけでなく、長年の減反政策や生産人口の減少、そして備品・資材も高騰し、価格据え置きだったからこそ「今までよく頑張ってきてくれた」と生産者に言ってよいのではないか。
無いと確実に困る物として分かり易い表現としての米、その為製造業においては産業の中枢を担うものとして鉄鋼や半導体が「産業の米」、そしてねじは「産業の塩」と云われている。この数年の間にも、2020年からコロナ禍でテレワークが広がり電子機器の需要増等を受けての半導体不足で、自動車の製造ラインが滞っただけでなく交通系ICカードの新規発行すら一時取りやめとなった。そして2018年から東京オリンピックの準備だけでなく全国各地の再開発と西日本豪雨災害の復興で需要が同時期に高まった事もあり高力ボルト不足が起き、ねじ商社に普段取引のない企業から問い合わせが急増した事もある。
生産者としては基本的に仕入先の変動がない限り安定供給には務めているはずで、需給の逼迫が起きるのは大概消費者側の需要の急激な高まりとなる。その一方で普段は値引き競争が続いている。
関連業種だが、めっき企業から最近の景況感を聞いた際にこのような話を聞いた。
―最も処理を安くしている企業の価格がユーザー層の基準にされがちで、我が社はその企業と違い少ロット多品種対応だったり、皮膜も高精度・品質なはずで比較されては困る時もある。低価格を方針としている企業や長年価格据え置きな企業が何らかの事情で廃業した際に、同業他社がその価格に合わせだすと適正なはずの値上げをする機会も失われる。この業界も後継者・人手不足に悩んでいるが、しっかり売上があって利益を出して、経営者も社員も豊かに生活している様子を見せられれば、子供がいれば継がせたくなるし、社内の後継者候補だって継ぎたくなる。そして社員として入社したくなる、永く勤め続けたくなるはずだ―。
企業同士が価格に関して協定を結ぶのは自由競争の原則に反するが、だからといって過度な低価格はその1社だけでなく業界全体が疲弊する。
「モノ」も「ヒト=労働力」も常に安価で供給され続けると思ってはいけないはずだ。持続可能な安定供給と急な需要増にも対応できる体制には、適正な価格上昇を進めていかなければならない。