企業経営者が高齢化すると、後継者の育成や事業承継問題は避けられない。仮に経営者が急死や体調不良で事業に関わることができなくなると、事業運営にも支障が出かねない。その時に後継者がいないと、あっという間に破産や事業停止に追い込まれてしまう。しかし、いまだ業績低迷から抜け出せない企業は、後継者の育成や事業承継に向けた準備まで手が回らないのが実情だ。
民間の信用調査会社によると、2024年上半期(1―6月)の後継者不在に一因する「後継者難」倒産(負債1000万円以上)は254件(前年同期比21%増)を数え、調査を開始した13年度以降で最多件数を更新。年間で初めて500件台に乗せる可能性が出てきたという。実際、日本企業は高齢社長が多い。これが企業の倒産や休廃業・解散に直結することになり、調査でも「後継者難」で倒産した企業のうち、70代以上の社長が6割以上を占める。金融機関や取引先は、後継者の有無を与信判断の材料にするほどだ。
後継者難で倒産・廃業に追い込まれる企業の中には、いわゆる「オンリーワンの技術」を持っていたり、サプライチェーンの中で重要なポジションを担っていたりする企業も含まれる。それだけに事業承継がスムーズにいかないと、国や地域経済にとっても大打撃となる。イノベーションが起きないと国力を損なう恐れさえあるだろう。地域経済や住民生活に密着した企業の場合、地元の雇用問題など生活基盤の毀損にも繋がりかねない。
そこで近年増えているのが、第三者の企業に自社を売って事業を残すM&Aだ。大企業しか関係がないイメージがあるが、中小企業間でのM&Aの件数も着実に増加している。全国にある事業承継・引継ぎ支援センターが仲介したM&Aの件数は、24年度に入ってすでに2000件を超え、ここ5年で倍増している。
M&Aのメリットは、「幅広い候補の中から後継者を選べる」「経営経験者を後継者にすることで、経営の移行がスムーズになる」「株式の譲渡で現経営者が利益を得られる」などが挙げられる。一方でM&Aがうまく行かないケースも多々ある。理由は様々だが、売却額の算定は大きな障壁だ。同センターによると、「従業員の反発」も破談要因のひとつ。M&Aを模索していることは、企業内ではトップ以外の役員や従業員には伝えない方が良い。従業員の反発によって、事が進まないこともあるからだ。
「なんとしても雇用は守りたい」経営者の切実な思いに、M&Aは「最良の一手」になり得るかも知れない。だが日本では、「身売り」「乗っ取り」のイメージがいまだ色濃い。経営者の決断が傷つかないよう保護する仕組み作りが急がれる。