「もしトラ」で円安是正も、中長期視点で対応を

2024年8月5日

 銃撃事件の衝撃が覚めやらぬ中、トランプ前大統領が11月に控えた米大統領選の共和党候補に指名された。対する民主党バイデン大統領の大統領選撤退で、「もしトラ」(もしトランプが再選したら)が現実味を帯びてきた。仮にそうなれば、日本経済に及ぼす影響は計り知れない。
 周知のように、円相場は年初に1㌦=140円となり、円安に突入した。その後も下げ続け150円、160円となっているが、140円だった頃の衝撃は徐々に薄れている。もはや、輸入商品の価格が上昇しても静観する諦めの雰囲気さえ漂うほどだ。気が付けば、東日本大震災後の2011年10月につけた戦後最高値の1㌦=75円と比べほぼ半値になっている。まさにこの13年間の日本経済の浮沈を示すような数字だが、政府・日銀は今後も円安・ドル高の基調に変わりはないと強調している。
 そこで「もしトラ」だ。トランプ氏の過去の発言などを踏まえると、中国に対しては関税引き上げなど強硬な政策をとる可能性は高い。無論、政治家というよりビジネスマン的スタンスのトランプ氏のこと、損得勘定で現実的な判断することもあり得るが、仮にも「対中封じ込め」を実践すれば、日本を含めた周辺国に影響が出ることは必至だ。
 もしも米国が中国との貿易を縮小すれば、その需要は台湾や韓国、そして日本にも流れる可能性がある。そうなれば国内製造業に特需が舞い込み、景気回復にも繋がる…といきたいところだが、それは何とかの皮算用。トランプ氏は日本に対してもしたたかに交渉してくるだろう。トランプ氏にとって、対日交渉最大のテーマは「円安の是正」。これに尽きる。
 米国のかつての工業地帯、いわゆる「ラストベルト」はトランプ氏の大きな支持基盤だ。そこには自動車産業の拠点デトロイトも含まれる。ラストベルトの絶大な支持を受けて国内の自動車産業を守るには、日本企業が潤うだけの円安は決して許すことができない。それに乗じて日鉄のUSスチール買収問題も蒸し返される恐れさえある。誰が首相になろうと、日本政府がトランプ氏の強硬姿勢に対峙できるとは到底思えず、円高方向に徐々に修正されていくのではないだろうか。
 円安は海外に拠点を置く企業やインバウンドに期待する店舗にとっては追い風だが、原材料やエネルギーで輸入依存度の高い中小企業にとっては経営を直撃するものだ。企業は供給網を見直し、製造拠点の国内回帰を進めてきた。円高になると一転、輸出製品が値上がりし、日本製品の国際的な競争力低下にも繋がりかねない。米大統領選が迫り、乱高下の円相場に振り回される日本経済だが、中長期視点に立って乗り切るしかない。

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