〝安くなる日本〟その時、製造業は?

2024年7月8日

 急激な円安の進行により「安い日本」が顕著になっている。
 為替市場では歴史的な円安ドル高の進行が続いている。一般的に自国通貨の価値は国力に比例するものと考えられるが、日本では主力の輸出産業に有利であることから円安が好意的に受け止められる傾向が強かった。事実、自動車メーカーの2024年3月期決算は円安基調を追い風にして各社で営業利益や純利益過去最高を更新するといったケースが相次いだ。
 しかし、こうした「円安=株高」といった日本特有の為替と株価の相関関係も、終わりを迎えたのではないかという考えが強まり始めている。円安により原材料やエネルギー等の輸入コストの増加や物価高による消費意欲の低下が日本経済のマイナスリスクとなり始めているからだ。海外投資家の間ではドル投資による運用収益が目減りすることから、円安に懸念を示す見方も強まり始めた。
 街中を見渡すと外国人観光客の姿を見ない日はなく、インバウンド需要が大きく伸びていることを実感できる。数年前までは出稼ぎや技能実習生としての来日がほとんどだったASEAN諸国からの観光客も目立つ。今彼らは「日本の安さ」から渡航しているのだ。一方で日本人が、国内で働くより賃金が圧倒的に高い海外に出稼ぎに行くいうと話も囁かれている。
 こうした中で製造業はどうか。かつて人件費の安さを求めて製造拠点を海外に求めたのが日本の製造業だった。これら国の一部に至っては前述の通り、今では日本に安さを求めて観光客が押し寄せている。台湾の半導体大手メーカーが熊本に工場を建設しているが、採用される高卒や大卒新人は地元企業の給与平均を大幅に上回っているとされており、すでに日本人が外国企業に〝買われている状況〟が始まっている。このまま円安が続けば、海外企業がその安さから日本に製造拠点を持ち、熊本のケースが日本の各所で生まれるのではないか。その時、中小企業がほとんどである日本の産業は人材獲得で圧倒的不利な立場に追い込まれるだろう。
 早急に求められるのが、やはり価格転嫁だと筆者は強調したい。急激な物価高騰によるコスト増、外国資本だけに人材が流出しない強い賃金の向上、これらを十分に反映した製品価格への転嫁が最も重要な経済政策のはずだ。現在国は、物価上昇、賃金向上、価格転嫁を推し進めているが、価格転嫁のみ企業任せの部分が強く国のコントロールが難しい課題となっている。そもそも日本を安くしたのも価格転嫁の進まない日本特有の構造であり、逆を言えばここに思い切った改革を日本全体が実行できれば光が見えるのではないか。

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