中小企業の生産性向上へ、不自然な淘汰は早計

2024年7月1日

 国が進めてきた新型コロナ対策の中小企業向け資金繰り支援が6月末で終了した。当初は3月末で終了予定だったが、「ゼロゼロ融資」返済時期の兼ね合いもあって延長されたものだ。
 7月に入り、今後は本格的な経営改善・再生支援に切り替えていくようだが、借入金利も上がるとみられる。人件費や原材料、エネルギー価格の上昇などのコストアップが相次いでいるなか、業績回復が遅れ賃上げ原資を確保できない企業では、従業員の退職引き止めや新たな人材確保策が難しくなっている。特に採算性の低い事業を続けている企業は、資金繰りの逼迫が倒産の引き金になる恐れもある。
 そもそも「ゼロゼロ融資」は、コロナ禍で資金繰りに窮していた中小・零細企業を対象に、非常手段として「実質無利子・無担保で融資する」という制度だ。ところが、その後の経営改善が進まず、返済に苦慮している企業も少なくない。それを踏まえて一部の経済アナリストやエコノミストは「本業の利益で借入金の利払いができない状態に陥っている企業は淘汰されるべき」と論調を張る。なかにはネガティブな印象を受けがちな「淘汰」を避け、「業界の新陳代謝」と言い換える者までいる。生産性の低いビジネスモデルや企業を温存させるのは弊害、というのが共通の主張だ。
 業界を回ってみると、深刻な人手不足が企業経営の足かせになっていることを実感する。中小企業、なかでも零細企業とされる家族経営型の町工場はどんどん姿を消している。製造業全体でみれば、業界全体の合理化が進んだという捉え方もできるだろうが、現在の日本型経営が限界に来ていることを示唆しているようにも見える。
 アナリスト氏らの唱える「淘汰」も一筋縄ではいかない。例えば同業者が廃業(倒産)したことにより、その企業の事業全般や取引先が他社に譲渡されるケースがある。それが、副業など本業以外の業績が悪化した場合や後継者不在のため廃業したのであれば、譲受側は倒産企業のおこぼれに与るかも知れない。逆に製品需要の減少や部品高騰による経費増大、社内の内紛やトラブルなどで倒産したのであれば、同業社がその企業の事業全般や取引先を受け入れたところで薄利の状態が増大する。人件費などの増加も伴って連鎖倒産の可能性すらある。
 かつて13行もあった都市銀行が4つのメガバンクに集約されたように大企業なら「淘汰」も可能だろう。中小企業は業務効率を高めようにも資金的な余裕に乏しい。そのため生産性の低い中小企業は退出を促されるが、果たしてそれで国全体の生産性は高まるのだろうか。何より企業の多様性が失われてしまうのは寂しい限りだ。

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