今月5日から7日にかけて台湾・高雄市で行われた「台湾国際ファスニング見本市(Fastener Taiwan2024)」で出展していた台湾企業に今一番の関心事は何か、と質問を投げかけたところEUが導入したCBAM(炭素国境調整メカニズム)と答える企業が大半を占めていた。北米と欧州が主要な市場である台湾ねじ産業にとってはEUをはじめアメリカやイギリスといった各国が定めた炭素税への対応は喫緊の課題となっており、日本もまた今後対応に追われるものと思われる。
CBAMについては昨年10月より導入に向けた移行期間が既に始まっておりファスナー(ねじ)製品も対象に含まれている。中でも関係者を悩ませているのは炭素排出量の算定であり、移行期間が始まって以来四半期毎の報告が課せられていたがこれまでは算定が難しい場合には欧州委員会が公表しているデフォルト値(default values)を使用して暫定的な排出量を算出することができた。しかし今年7月からは具体的な算出方法の採用が求められており対応がより煩雑になることが予想される。EUへ対象製品を輸入する企業は製造元や工場の所在地といった情報の登録に加えて炭素排出量の報告が義務付けられており、違反した場合罰則が設けられているのに加えて対象製品の新規発注を認めない方針を定めている。
同見本市では欧州の商社団体(EFDA)関係者によるCBAMへの対応に関する講演が行われたが、その中でEFDAの関係者が「No data, No fasteners(データなくしてファスナーなし)」と強調していたのが印象的だった。つまりはCBAMへ対応しないと輸出そのものが行えなくなるため輸出に多くの依存する台湾企業にとってはまさに死活問題だと言える。排出量の算定にあたっては製造元のみならずサプライチェーン全体の排出量を考慮する必要があるため鋲螺業界が一体となって取り組む必要があると訴えていたがそれこそ炭素排出量の多くを占めるとされる鉄鋼材料やあるいは電力については一企業が対応できる範疇を大きく超えている。講演の中で、EFDAは台湾ねじ工業協会(TIFI)に対してサプライヤーが炭素排出量報告の際に使用できるテンプレートや製造元への対応ガイドラインを提供すると表明していたが、輸出する際には国を超えた連携や協力も必要となってくるだろう。
グリーン調達への対応は今後世界のトレンドとなっていくのだろうか。もしCBAMのような制度が定着した場合、当然ながら炭素排出量が少ない製品が競争力を持つようになるがその競争力を支えるのは市場ではなく制度である。品質と異なり制度は時代の都合やあるいは政治的な要素により変更されたり撤回されたりすることもあるだろう。グリーンな製品が本当にビジネスの機会をもたらすのか注視する必要があるものと思われる。