機械工具メーカー各社の23年度決算は軒並み好調を維持していたが、会見では総じて「業界の需要は景気変動に左右されやすく、好不況の波がはっきりしている」との見解で一致していた。生産財の宿命とはいえ、景気が良いと需要が需要を呼び、不況になると真っ先に更新の見送りやコスト削減の対象となるためだ。それは機械工具のみならず、工作機械や産業機器にもあてはまる。
先日、機械商社が主催する工作機械や産業機器、機械工具等の展示会を訪ねたが、工場の自動化・省人化の高まりや、自動車業界などで脱炭素化の開発が加速していることを踏まえ、それらに対応する商材提案を行う企業に注目が集まっていた。数社に話を聞いたが、需要は堅調とみる向きが多い。物流滞留や燃料費高騰などマイナスの影響はあるが、カバーできるとの見方が大勢だ。
とはいえ、仕入先からの値上げ要請も日に日に強まっているという。他にも設備投資の一服感や地政学的リスクに伴うエネルギー・素材価格の高騰、中国経済の後退など不安定要素を挙げればきりがない。先行きが不透明な中、今後の機械工具受注で大きなカギを握るのは、やはり自動車産業になるようだ。
各種調査をみると、2024年の自動車販売台数は23年より増加を見込む予測が大半。世界的に大きな市況変化がなければ、世界の自動車販売台数は27年にも過去最高を更新する勢いだ。市場拡大とは裏腹に、先の展示会で多くの企業が口にしていたのが、いまだ結論が見えない「EVシフト」。中長期的にはEVシフトが進むとの見解だが、欧米などでEVに逆風が吹き始めているのが懸念材料と口を揃える。
例えばEUは、35年に内燃機関車の新車販売を禁止する方針を撤回し、イギリスやドイツ、フランスなどでもEVの懐疑的な取り組みがみられる。ある出展企業は、「EVシフトと言われているが、エンジン向け需要は依然底堅い。舵を切る判断基準が難しい」と話す。自動車メーカーもはっきりとした方向性を見せず、全方位対応を余儀なくされているのが実情だ。
切削工具に目を向ければ、EVや自然由来エネルギー向けの大型ワークへの対応、複雑な形状や高機能材料の登場で、これまで以上に高い精度が求められている。素材価格の上昇で価格改定に踏み切っているが、顧客からは工具寿命に対する要求も厳しくなっている。
先般発表された「中小企業白書2024」では、「家庭が一番、仕事はその次!」という理念のもと、職場環境整備を「人」への投資で人材を確保し、成長した工具メーカーの事例が挙げられている。工具業界を取り巻く環境が激変する中、時代に適した人材の発掘、採用、育成が急がれる。