国内の景況感は大企業を中心に回復の兆しが見られるも中小企業は足踏みの状態が続いているように見える。記録的な円安基調については自動車をはじめ輸出産業が伸びたほか訪日客の増加といった形で恩恵を受けている反面コスト増による消費の冷え込みが懸念されている。厚労省の発表によると今年3月の実質賃金は前年同月比2・5%減で24カ月連続の減となるという。今年4月分から春闘の結果が反映されてくるとのことだが昨年も大企業を中心としたベースアップが話題になった一方でそれらの伸びが物価高に追いついていない状況が浮かび上がる。
円安に話を戻すと4月下旬に1㌦=160円を超えた際には直後に為替介入と見られる動きがあり一時は153円まで円高が進んだがその後は反転して155円台にまで戻っている。当初円高の進行を静観していた日銀も「必要があればいつでも適切な行動を取る」と発言しており、関係者による発言に大きく振り回されている状況が続いている。
このような環境下で円安を追い風に営業利益5兆円という未曽有の数字を記録した自動車メーカーがいる一方、部品メーカーはコスト増に加えて価格転嫁が思うように進まず利益が圧迫される苦しい状況に追い込まれている。本紙が4月から5月にかけて実施した「ねじの日特集号アンケート」では業界各社による製品への価格転嫁について調査を行ったが、集計する中で原材料や諸資材については「(価格変動を)反映できた」「一部反映できた」という回答が多く見られたが労務費については原材料や資材ほどに反映できていないという傾向が確認できた(※各社の回答内容は次号掲載予定)。公正取引委員会は昨年11月に労務費の適切な転嫁に向けて指針を公表すると共に指針に沿わない行為により公正な競争を阻害するおそれがある場合には厳正に対処すると明記しているが指針への理解が浸透するにはもう少し時間を要するように思われる。
価格転嫁に関連する話題として、大手メディアが報じるところでは昨年10月~12月の国内企業の設備投資総額は前年同期比で16・4%増加したとしており増加の要因としてコロナ禍からの回復と価格転嫁が進んだことを挙げている。国内企業は鋲螺業界を含むあらゆる分野において人手不足に苦しんでいるが今後も労務費の上昇が進んだ場合自動化・省人化に向けた設備投資のハードルが低くなることが予想される。しかしこれはあくまでも相対的な話であって、企業としては必要な人材を確保するにしても設備投資を行うにしても利益が十分に確保できていなければ行うことはできない。不当な価格転嫁拒否に対しては国による適正取引の監視強化など更なる追加策を期待したい。