本紙では3月25日号及び4月1日号で「締結工具技術の今」と題して特集したが、時評子の取材や各記事から分かる通り手動工具(ハンドツール)・電動工具ともに高品質・高性能化がめざましいだけでなく、工具に求めるポイントや潮流も様々だと分かった。
最近顕著なのは電動工具におけるバッテリーとモーターの性能向上とそれに伴うコードレス化であり、この影響でエアー工具から切り替える傾向もある。エアー工具はコンプレッサーを用意するだけでなく、それを動かす為にも電気が必要で使用する現場では2種類のコードが広がって取扱いづらくなる事例もあり、コードレス化の利点は大きい。但しサンドブラストをはじめエアーでなければできない作業は電動工具に切り替わるとみられていない。そして電動工具が高性能化すると同時にビット(先端工具)・ねじも高耐久性が求められており、同時並行で向上していく必要がある。
また工具を頻繁に使う一般ユーザーや一部プロユーザーにとっては、工具はステータスシンボル・ファッション性としての意義も持っており、昨今は「DIY女子」という言葉も流行している。取材において前述とは別の工具の卸商兼小売店を取材訪問したが、或るメーカーの工具はユーザーにとってステータスシンボルとの事で「男性にとっての高級腕時計、女性にとっての高級ブランド鞄ぐらいの感覚」と説明もあった。また店内に置かれたイタリアのメーカー製工具は工具単体としてだけでなく付属品のバッグ類のデザインにも注力してファッションアイテムな感もある。正反対に位置しそうな「工具」「現場作業」「DIY」と「ブランド」「おしゃれ」「ファッション」だが対立するものではなく両方が成り立つ。
そして様々なメーカーがブランドとして1本1万円を超えるような手動工具も製造販売している。その一方で最近の100円均一ショップ等では多種多様な製品が文字通りコストパフォーマンス良く作られ売られており、工具も例外ではない。工業製品である以上、同寸法・同規格で対応した工具であれば締結をはじめ〝用をなす事〟は出来る。
しかし気軽なDIYではなく業務として、こだわりの趣味として使用をする為には安心感が欲しいのだ。もし工具の品質が悪くて工具単体が破損するだけならまだしも、ねじ、そして母材(被締結材)まで破損したら?費用・手間をかけて母材を製作していたのに最後の締結作業で台無しにしてしまう可能性もあり、高価格だとしても高品質・高性能の工具が選ばれ支持されている理由がそこにある。工具・ねじ・母材―締結という作業はこの三者で成り立っている点を意識しなければならない。