本紙既報の通り公正取引委員会は11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表した。年明けの更なる取引環境の改善につなげたい。
原材料価格やエネルギーコストの高騰にともない、大手企業を中心に持続的な賃上げムードが高まっている中、中小企業の賃上げが課題となっている。持続的な賃上げを実現するためには日本の雇用の7割を占める中小企業の原資を確保できる取引環境が求められている。だが中小企業では材料や副資材高騰分の価格転嫁が進んできたものの、これ以外の高騰分への価格転嫁が進んでいないのが実情だった。特に労務費は人手不足が叫ばれ人件費が高騰しているにもかかわらず、価格転嫁に反映されていないケースが多く、中小企業の賃金が上昇しない要因のひとつとなっていた。
公正取引委員会は労務費の価格転嫁が進んでいない要因に取引環境があることに注目。内閣官房の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定してウェブサイトで公表した。
同指針では発注者・受注者の双方の立場からの行動指針を定めており、労務費の転嫁に向けた取組み事例も記載している。またこれら指針に沿わない行為をする場合は独占禁止法や下請代金法にもとづいて厳正に対処することを明記している。発注者・受注者ともに同指針に基づいた取引を実践しなくてはならない。一方、既に価格転嫁の受入れを積極的に推進している買い手側企業にとっては指針の公表で自社の行動規範を改めて確認できる機会としたい。
材料高騰分の価格転嫁は一通り完了したが、それだけしか値上げが認められなかったので利益の伸びにつながらず、むしろ人件費や管理費等が上がっていることで利益が下がっているというケースが多い。今回の指針公表を機会に適正な取引環境で利益の確保につなげたい。
指針では発注者が採るべき行動のひとつに「本社(経営トップ)の関与」を挙げている。労務費の上昇分について転嫁を受け入れる方針を経営トップまで上げて決定することとしている。さらにこれら受入方針を書面に残る形で社内外に示す、発注担当者は受入の取組み状況を経営トップに報告することを定めている。いくら会社方針が価格転嫁受入れを推進する考えを示していようが、現場レベルのみで協議が行われた結果、受注側の値上げ交渉が通らないといったケースがこれまで見られたが、こうしたケースの改善につなげてほしい。
指針は法律に基づき規範を定めたものだが、発注者・受注者関わらず、ともに賃上げを実現するウィンウィン環境を最終目的にしていることを忘れてはならない。