頻繁に使われるようになった言葉「リスキリング」。経済産業省では次のような概要説明がされている。 ―新しい職業に就く為に、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応する為に、必要なスキルを獲得する/させる事。近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につく為のスキル習得を指す事が増えている。単なる「学び直し」ではなく、昨今の「学び」への注目のなかには、個人が関心に基づいて「さまざまな」ことを学ぶ事全体をよしとする言説が多いが、リスキリングは「これからも職業で価値創出し続ける為に」「必要なスキル」を学ぶ、という点が強調される―。
一時期云われていた「生涯学習」という言葉における趣味としての学習で知識欲を満たす・教養を深めるという意味合いよりも、仕事に役立つ事を目的とした面が強く感じられるのが大きな違いだろう。
民間でも電子・通信、物流、商社、金融、保険―と幅広い国内大手企業が支援や制度を導入する事が発表され、少子高齢化にともなう人手不足により労働力の供給がいよいよ追い付かなくなってきた昨今、より一層の1人当たりができる・こなせる事、そして生み出す価値を増やしていかなければならないのが反映されている表れともいえる。
これは学習(座学)に限らず広い意味では実務における技能も含まれるはずで、製造業の現場においては多くの設備機器を使いこなせるようになる―等の「多能工化」という言葉が端的な例だろう。
しかし考えさせられるのは学習する事の意義だ。求人して就職希望で来た候補は、自社に申し込んで来るまでに日々生活して・育ってきたが、生まれたばかりの子供を保護者が着せて・食べさせて、そして学ばせて、それだけの時間・金・労力を掛けてきたかという事を忘れてはならない。
これの分かり易い例は初任給だろう。本紙でも年度末・明けの時期に採用アンケートを実施しているが、給与体系では実際に職務に就く前から高卒と大卒では差がある。採用された新入社員自身が学費だけでなくその期間の生活費諸々を含めて払っているかは別として、新入社員同士の間で不公平感があったとしても、それまでの学歴に対し期待を含めての評価をしている証だ。
リスキリングだけでなく就業前の勉学や職業訓練、前職があるならそれまでの経験や培ってきた技能も含めて、企業に求められるのはこれを賃金や待遇を以って評価しなければならない事だ。人材の買いたたきが続けば、保護者が子供に勉強するように言っても説得力がない世の中になりかねない。