格差広がる賃上げ、人への投資が急務

2023年10月2日

 経団連によると大企業136社における今年の平均賃上げ率は前年より1・72ポイント高い3・99%でこれは1992年以来31年ぶりの高水準になるという。今年の春先は企業による賃上げが大いに注目を集め、春闘の際には労組側の要求よりも高い金額を提示して早期決着を図る企業の姿も散見された。日本労働組合総連合会、いわゆる連合などの団体トップからは継続的な賃上げが必要であるとの見方が示され、他の先進諸国に比べて上昇率が著しく低いことから「安いニッポン」とも揶揄されてきた実質賃金の上昇に向けて風向きが変わりだすかと思われたが残念ながら伸び悩む景況感も相まって一時的な話題として消費されてしまった感がある。
 ただ今年の賃上げが企業規模を問わず近年稀に見る高水準で決着したのは確かで、信用調査会社による別のアンケート調査によれば「賃上げを実施した」と回答した企業は大企業が89・9%であったのに対し中小企業は84・2%で、中でも業種別では製造業が最も高かったとしている。依然として大企業と中小企業では差が開いているが前年(6・6ポイント)よりも差は縮まっているとしており、中小企業においても賃上げに対して積極的である様子が伺える。ただし以前にも小欄で触れた話題であるが中小企業が賃上げに踏み切る背後には人材確保が大きな課題となっており、大企業を中心に賃上げが実施される中取り残されてしまうと人材の確保が難しくなるという危機感から止むを得ず賃上げを実施した中小企業は少なくないようだ。
 そしてこうしたコスト上昇をそのまま呑み込むという訳にもいかず、鋲螺業界においては依然として価格改定の動きが継続しているが鋼材価格を中心に価格改定が進んだ21年頃とは異なり最近では副資材やエネルギーコストの高騰はもとより人件費を理由とした価格改定も行われているようだ。今では最低賃金も全国で平均1000円を上回っているが、これはコロナ前であれば「非現実的」と一蹴されかねなかった数値だろう。しかしコロナ禍そしてウクライナ危機等を経て現実に平均1000円の大台を突破しており、今後は副資材やエネルギーコストだけでなく人のコストについても需要家に理解を求めていく必要が出てくるものと思われる。
 自動化やDXの推進により業務効率を高め人件費を圧縮していくことはできるが最終的に無人という訳にはいかない以上、設備・システムへの投資はもちろん「人への投資」についても加速させていく必要があるだろう。高度なスキルをもった人材の育成だけでなく、働きやすい環境の整備や同じことだが担当者が休みやすい業務体制を構築することも立派な投資だ。

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