自動車メーカー大手の3月期業績が過去最高を記録する中で、ファスナー産業では比例して好調な景況感が見えにくい状況だ。
トヨタ自動車の2023年3月期決算では、営業収益が前年同期比18・4%増の37兆1542億円となり2年連続で過去最高を記録した。グローバル生産台数は913万台、販売台数は960万台となり、これも過去最高を記録した。
資材価格の上昇により営業利益は前期から減益となったが前回の見通しを上回る水準となった。来期の見通しについては営業収益が38兆円、生産台数は1010万台として増収増産を示している。台数増の見通しについては、半導体の供給リスクを見える化して代替品の検討や、工場稼働率の向上に向けた改善により、今年3月以降は高い水準の生産を継続していることを背景としている。電動車は前期から34・9%増の384・3万台となりこの比率は全体の37%となる見込みだ。
一方、自動車産業を主力とするファスナー商社の一部では、2022年度の実績について、半導体不足を主要因として減収。利益についてもコスト高騰の影響により製品価格への転嫁のタイミングが追い付かず大幅減益となった。今期より価格改定の反映が進み利益の改善を見込むが、依然エネルギー・コスト高騰が先行き不透明感を漂わせる。金型メーカーの一部では昨年より新規図面の引き合いが減少。要因のひとつに自動車メーカーの部品共通化の取組みがあると指摘する。かつては主要仕向け先の自動車産業の業績が伸びれば比例してファスナー産業の業況も好調となっていたが、ここ数年よりこうした流れが見えづらくなった。そして前述のトヨタ自動車の過去最高の業績を見ると、時代の大きな転換点に立っていると感じざるを得ない。
自動車産業向けの製品をメインにしてきた大手サプライヤー各社では、本格化するEVシフトの流れを読みパワー半導体やeアクスルといった新たなキー技術に重点的に投資を進める動きがある。自動車部品系ファスナーメーカーでもバッテリー関連の締結技術や軽量化に貢献する製品の開発・営業展開が見られる。一方、自動車産業だけに頼らない構造体質を目指すために新事業への種まきを図る動きも見られる。これまで自動車産業に関わっていないファスナー企業が、新しいニーズを求めて参入するケースも現れるだろう。
今年4月に発表された中小企業庁の「2023年版中小企業白書」では、激変する時代を乗り越えるために価格転嫁や賃上げといった施策に加えて「イノベーションの加速」を挙げている。時代が変化している以上、それに適応するための経営施策が求められている。