経済産業省の西村経済産業大臣は2月10日に賃上げに積極的な企業との意見交換を行った。参加した7社は製造業などを含む大手企業の顔ぶれ。サプライヤー業界はどのように見ていたか。発表によると大臣からは「経済全体の歯車を回し始める」という発言があったというが、この質問を参加企業に投げかけただろうか。あなたの企業は下請け企業の値上げ要請を100%受け入れていますか―。
本紙既報の通り日本銀行の企業物価指数(2020年基準)から2022年のファスナー製品品目を分析したところ、ボルト・ナットは平均で114・9と前年比13ポイント上昇していることがわかった。輸出ボルト・ナットは同11ポイント上昇の113・6、輸入ボルト・ナットは同16ポイント上昇の153・8と、これまで変動の鈍かったファスナー製品にも徐々に値上げの動きが見て取れるようになった。
一方でばねの品目を見ると、変わらず物価指数の変動が鈍い状況が続いている。一昨年を通年で見ると、2020年時と変わらないことを示す「100」の数字が並んだ。一部ではこの時期になぜと首を傾げたくなるが100を下回る月もあった。2022年に入ると2ポイントから5ポイント上昇しているが、軒並み高騰している材料品目に比べて、その上昇率はあまりに弱々しく価格転嫁が進んでいないことを表している。
本紙では材料品目と、副資材、ねじ・ばね等の製品品目についてのみ月別で物価指数を分析しており、筆者は自動車や機械などの完成品まで詳細に推移を把握していないが、川下の完成品の値上げが強く行われていることは明らかだ。物価指数の上昇率をグラフで表すと材料「高」→ねじ・ばね「低」→完成品「高」の〝すり鉢現象〟が容易に推測できる。材料コストアップ分を、中間のねじ・ばね等の部品サプライヤーのみが負担して、コストアップ低負担の完成品企業が値上げを実施しているという歪んだ構図が存在していないだろうか。コストアップをサプライチェーン全体が均等に負担して、川上から川下まで綺麗に水を流さなければ、どこかで濁流が生まれ氾濫してしまう。これでは災害やコロナ禍を教訓に日本が進めている強靭なサプライチェーンの構築は実現しない。
本紙が企画したステンレスねじメーカー団体の座談会でも未だ価格転嫁が健全に進んでいないことが明るみとなった。出席者からは「日本全体で善の循環を回していく必要がある」との発言もあった。政府が進める賃上げ促進に異論はない。ただし下請け取引の適正化と並行して、大手企業のみでなく中小企業の視点に立った「下請け適正化×賃上げ」のハイブリッド政策を強く求めたい。