今年は日本社会の課題に応える一年となるだろうか。岸田首相は年頭に行われた記者会見の場において賃上げ、国内企業の競争力強化さらには少子化といった日本社会の長年の課題ともいえる各テーマについて「これ以上先送りできない課題に〔中略〕一つひとつ答えを出していく」として前向きに取り組む姿勢を見せた。各テーマが日本における「先送りできない課題」であることは論を俟たないが、会見の場では具体的な施策や財源について触れられることはなかった。昨今ではDXやGXといった言葉が注目を浴び、環境に配慮した生産活動やデジタル技術の活用といった取り組みが加速する一方で日本社会の長年の課題についてはほとんど放置されてきたように見える。「働き方改革」を契機として長時間労働やハラスメントに対して意識が高まっていったように賃上げについても理解が進むことを期待したいが、具体的な政策を提示せず補助金をばら撒くだけでは格差の再生産を後押しするだけだろう。
また首相は同じ会見の場で「企業収益が伸びても期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」と認めたがこれはもっと大きく取り上げられても良い発言ではないか。昨今の価格改定について業界関係者からは鋲螺の主たる材料である鋼材については価格転嫁が概ね認められる一方、その他の資材や電気代といった関連コストについては良い回答がもらえず苦慮している、という声が多く聞かれた。業界における価格転嫁の実態を鑑みても政府は座してトリクルダウンに期待する前に働く全ての人が適正な対価を受け取れるよう働きかけていくべきだ。間違っても賃上げの旗を振ろうとしている政府が「生産性向上を通じて賃上げを」といったともすれば賃上げを企業の自己責任に繋げてしまうようなメッセージを発するべきではない。少なくとも今起きているインフレは企業努力で解決できる水準にはないだろう。
しかし他方で各企業は政府の介入を待てば良いとは(当然)ならず、先行き不透明な現況にあってしっかりと利益を出しながら事業を継続していくためにも依然として猛威を振るっているコロナ禍への対応と並行して生産性向上のため自動化・省人化に取り組んでいく必要がある。本紙前号では次の時代を担う経営者達に自社での取り組みを聞く特集記事を掲載したが、そこでは職場環境や人材に対する柔軟な発想が多く聞かれた。在阪商社ではここ数年ウェブ発注システムが普及しており、今年1月からは最大手の1社がECサイトを本格稼働させるなどウェブ活用の機運が高まっている。日本という国自体が変わろうとしている中、今年が業界にとって良き変化の年となることを願いたい。