賃上げ要請する政府、下請け取引の適正化を

2022年12月19日

 岸田文雄総理大臣は11月2日にトヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の十倉雅和会長らと会談を行い、自動車関連産業の強化に向けた話題を挙げたほか、賃上げの要請を行った。
 その5日後、経団連の十倉会長は記者会見で2023年春季労使交渉において、ベースアップを中心にして手当、賞与・一時金などを含めて賃上げを会員企業に呼びかける方針を示した。賃上げを持続的に行い、物価と賃金の好循環を実現するのが狙いという。「働き手の約7割を雇用する中小企業に賃金引き上げのモメンタム(勢い)が広がっていくように、パートナーシップ構築宣言を通じた取引価格の適正化などの取り組みを継続していく必要がある」との要旨発言もしている。
 「パートナーシップ構築宣言」とは、サプライチェーンの取引先と共存共栄をすることを目的に、発注者側の立場から、下請事業者との望ましい取引慣行(下請中小企業振興法に基づく「振興基準」)を遵守することを企業の代表者の名前で宣言するもので、政府や経団連、日商、連合が共同で創設した制度だ。前述の十倉会長の発言からは、賃上げのためには、経団連の会員企業だけでなく、日本の働き手の大半の受け皿となっている中小企業が実行していくことが必要で、そのためには下請け取引を適正化して、自分達の取引先でもある中小企業が健全な利益を得ていく仕組みが肝要であることを認識していることが読み取れる。
 現状、中小製造業が競争できる環境は悪化しつつある。第一が製品価格を転嫁しにくい環境だ。昨今の材料やエネルギーの高騰は自社の改善で吸収できるものではなく、製品価格に転嫁せざるを得ないはずなのだが、下請け取引の適正化が掲げられているにも関わらず、立場の弱い中小製造業の価格転嫁が進んでいない。仕入先と買い手に挟まれた形で中小製造業が高騰分のウエイトの多くを自社で負担するという歪な構造を生んでいる。
 第二に人材不足だ。これら高騰分を中小製造業が緩衝材となり負担させられていれば、買い手となる親事業者が利益を上げられるのは当然である。この利益が親事業者、つまり大手企業のベースアップの材料となり賃金は大手が伸び中小が伸びない構図となる。優秀な人材は賃金の高い大手のみに流れ、中小で獲得できない二極化が進む。
 これらが悪循環となり中小製造業の武器を失わせているのが今の日本だろう。
 政府は企業に賃上げを要請するならば下請け取引の適正化にもっと焦点を当てるべきだ。そしてこの課題をすでに認識しているはずの大手企業中心の経済団体は、政府への働きかけを強めてほしい。

バナー広告の募集

金属産業新聞のニュースサイトではバナー広告を募集しています。自社サイトや新製品、新サービスのアクセス向上に活用してみませんか。