モノ不足や材料高騰、また災害多発による影響で製造業のサプライチェーン見直しの動きが加速している。
ジェトロは「海外サプライチェーン多元化支援事業」として日本とASEANのサプライチェーン強靭化に貢献すると認めた事業計画に対して1億円から15億円の補助金を投入する(本紙既報)。日本国内での自社生産量の減少をもたらすものではないこと、製造する製品や部素材がサプライチェーンの途絶によるリスクが大きいもの、海外生産割合が50%以上で一国への集中度が15%以上であるものが対象となる。中小企業の場合は補助対象経費が5億円以下の部分は3分の2以内、5億円から15億円の部分は2分の1以内、15億円以上の部分は4分の1以内と、高い補助率と上限となっており、建設から機械導入まで海外拠点をまるごと立ち上げることのできる規模を想定した大規模支援事業といえる。
製造拠点の一極集中からサプライチェーンの多元化によるリスク分散に焦点を当てた海外進出はかつてより進められてきたが、これまでは安い人件費を重視した傾向が強かった。新型コロナ禍でモノ不足が発生している昨今では安定供給がユーザーの大きなニーズとなり、さらに海外人件費も高まる中で、サプライチェーンの多元化やリスク分散に注目した検討が強まると思われる。
サプライチェーンの確保という目的から前述のような海外進出を促す動きのほか、海外物流リスクを回避するため、また物流コストの高騰にともない国内調達に注目した製造拠点の回帰も進むだろう。すでに国内外の大手メーカーでは、海外拠点での生産依存度が高く、半導体材料や自動車の高機能部品の生産を日本拠点に持ってくる動きも一部で見られる。円安が大きく進む中で国内生産、海外輸出のメリットを享受するための動きも強まるはずだ。
本紙で既報した調達システムのDXによるバーチャルファクトリービジネスを展開する企業が調査した製造業アンケートの中で興味深い調査結果があった。
調達・購買で重視する観点について、「調達原価の低減」が2018年当時で最多であったのに対して20年、22年ともに4割未満にダウンしている。一方で「調達先・生産キャパシティーの確保」「納期遵守」の重要度が大きく回答を伸ばしているのだ。コスト低減からキャパの確保、納期遵守の傾向は、サプライチェーン全体の変化につながる可能性がある。
サプライチェーンの多元化やキャパの確保、納期遵守が強まる傾向は、企業規模に問わず多様なサプライヤーを潜在的に持つ日本、さらにはその多様な強みを活かせるサプライヤー各社の好機とならないか。