電力料金の値上げが、工場を持つファスナーメーカーに影響を及ぼしている。
日本の主要発電となる火力発電のうち、燃料として最もウエイトを占めているのがLNG(液化天然ガス)だ。石油、石炭と比べてCO2排出量が最も少ない燃料となる。LNGはコロナ禍の経済対策として規制緩和による電力需要増により供給がひっ迫して価格が上昇し続けていた。さらにロシアのウクライナ侵攻により、ロシアからの供給不安のあおりでLNG先物価格は世界的に急騰している。日本ではLNG輸入量の9%をロシア産に依存している。経済産業省によると、日本の一次エネルギー自給率は11%と、G7の中では最も低い状況であり、改めて日本のエネルギー自給リスクの危うさが露呈してしまった。
LNGの高値が続く中で電力料金が上昇している。電力大手は7月に法人・事業者向け料金を全10社が値上げする。電力小売りの自由化にともない発足した「新電力」会社の倒産や事業撤退なども相次いでいる。帝国データバンクによると2021年度の新電力会社の倒産は14件で初の2桁に達した。過去1年間で見ると全体の4%にあたる31社が倒産、廃業、もしく事業撤退をしたことが明らかになった。
新電力は、強みだった価格の安さで電力大手と差別化が図れていたが、エネルギー高騰によりその差がほとんどなくなり、新電力のメリットが薄まっている現状も見られる。ファスナーメーカーでは、自由化を機に新電力と契約を交わしていたが、大幅な値上げの発表を受けて料金がほとんど変わらない電力大手に契約を戻したというケースも聞かれる。ケースによっては新電力からの値上げ発表が実施のタイミングとほとんど変わらず、電力大手では買手有利の営業キャンペーン枠が全て埋まってしまい、やむなく料金の高い標準枠で契約したり、他の新電力大手では契約自体を断られたりするケースが発生している。新電力への新規契約ができないケースはファスナーメーカーの各社で聞かれ、仮に契約できたとしても今後の大幅な値上げを危惧する声も挙がっている。
もし自社で契約中の電力会社が事業撤退等で電力供給を停止する場合、さらに新規契約先が決まらない場合でも、「最終保障供給」により電力供給が止まらない仕組みとなっている。ただし電力大手の標準的な料金プランの2割増し程度となるため、いずれにせよ新たな契約先を早急に決める必要がある。
工場を保有するメーカーにとって電力は設備を稼働するために必要な替わりの効かないインフラだ。料金高騰により製品原価へ影響する要素だけに、安定して需要家に供給できる仕組みの再構築が求められる。