ロシアが2月末にウクライナに対する軍事進攻に踏み切った影響は、コロナ禍からの脱却を模索する世界経済に暗い影を落としてしまいそうだ。
強い外需に牽引されてきたファスナーの大規模市場でもある機械工業の今後の推移も注目される。2021年の工作機械受注は、前年比7割増の1兆5414億円と3年ぶりの増加を見せた。前半は中国の強い回復から始まり、後半は欧米や日本国内も立ち直り、終わってみると過去4番目の受注額を記録した。建設機械は22年度の出荷額予測を前年度比5%増の2兆5632億円とこれまでのピークであった18年度を超える水準を工業会が予測している。工作機械、建設機械ともにコロナ感染拡大の影響を受けながらも、欧米・アジアの外需を中心とした強く早い回復で市場拡大を果たしてきた業界だ。一方で今回の戦争が起きる以前から部材供給不足のリスクをネガティブ要素として抱えていた。
今回の軍事進攻はウクライナのNATO加盟に強く反発するロシア側の暴走と捉える見方が強いが、ロシアが事実上の侵略行為という強硬手段を選んだ背景は、西側諸国、さらには中国の動きも明るみにならなければ深く読み解くことができない。ロシアに対する経済制裁が激しくなることで、民主主義国と専制主義国とで経済圏が分かれるブロック経済の構図が強まる恐れがある。これは冷戦を想起させる。これはグローバルサプライチェーンを命綱としている現代の製造業にとっては初めて対峙する大きなリスクを意味している。西側諸国が国際銀行間の送金・決済システムであるSWIFTからロシアの銀行を排除させようとする動きも見られ、ブロック経済の強まりが現実味を帯びてきた。
ロシアは原油、天然ガスの主要生産国のひとつであり、供給ができなくなると代替の供給国を見つける必要があるが、それは難しいとされている。エネルギー資源の供給バランスが崩れれば、その影響は既にパンデミックで高騰し続けている鉄鋼、非鉄金属、化学品、資材、物流と全てに重くのしかかってくる。この状況下、ロシアが侵攻のタイミングを好機と捉えた可能性はあるだろう。
命に関わる安全保障のリスクを再確認したい。日本はロシアと隣接する島国であり、北方領土問題を抱えている立場にある。また南方では、尖閣諸島に対して中国が領有権を主張している。日本は地政学的に、もし大戦が起きれば戦争の最前線に位置するかも知れない国であり、この点で西側諸国とは立場が大きく違う。この日本独自の立場をリスクだけ捉えるのではなく、逆に活かして、日和見に走るのではなく、世界に対して危機の終息に向けた強い発信力を示してもらいたい。