〝見込み〟難しい需給変化の対応

2021年11月1日

 新型コロナウイルス感染症の拡大状況も落ち着きつつあり、時評子も今秋から地方での取材が増えてきた。
 久々に自動車産業や工作機械向けを中心にボルトを製造するメーカーを訪問でき、2019年から今年・来年と景況感や需給の状況・見通しについて聞いてみたところ、2020年上半期は新型コロナウイルス感染症で需要が減り、下半期は今までの分を取り戻すかのように高まったが、21年上半期は自動車製造に必要な半導体不足の影響で減り、現時点ではそれも解決されつつあり向こう約半年の生産分まで受注がある。しかし大手自動車メーカーが来年もしくは来年度に入って減産の可能性も聞いており、この2~3年の変化を体験していると半年先も分からない―という意で話しており、現状は半年間ずれた需給における〝ボタンの掛け違い〟なのかもしれない。
 社会科や歴史の授業で学んだように市場経済=資本主義は需要に対し基本的に見込み生産であり、それによる供給過剰が行き過ぎてかつての世界大恐慌や、最近では不動産・住宅市場のサブプライムローンに端を発するリーマンショックが起きている。一方で計画経済=社会主義(さらには共産主義)は経済が伸び悩みソビエトは行き詰まって崩壊し、市場経済との〝いいとこ取り〟を進めたい中華人民共和国も今秋は恒大集団が経営危機を迎えて世界が注視している。
 市場経済である以上は、①見込み生産でありながら、②余剰生産・在庫は避けたいので絞って、③しかし急な需要増に対しては取りこぼしたくない、④さらに最近ではSDGs(持続可能な開発目標)の観点から今まで以上に資源・エネルギーの無駄も避けたい―と二重三重にジレンマを抱えているのが現状ではないだろうか?
 以前本紙でも取り上げた工具の輸入商社では、ネット上で商品を告知して消費者から購入する予約が一定数取れた上で事業化するクラウドファンディングを行っていたが、これは通信技術の発達によって個人レベルでも情報を送り・集めやすくなった事で、今まで〝見込み〟でしか推測できなかったのを〝売れる確証〟として分かりやすくなった代表例だろう。
 しかし東日本大震災発生直後のガソリン・防災用品・食料品不足、新型コロナウイルス感染症によるマスク・消毒液の不足とその後の充分な供給を体験すると、予想外の影響で需給の変化は容易く起こる。
 社会・企業は生産の余力や在庫に対しある程度を〝必要な無駄〟と割り切った上で、情報・通信を活用して緻密で限りなく計画的な見込み生産を目標として進めていかざるをえない。

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