東京五輪はこのまま負のレガシーとなってしまうのだろうか。メダル獲得に沸く一方、東京をはじめ首都圏地域は懸念されていた通り新型コロナウイルス感染症の第5波に襲われることとなった。海外から多数の関係者が来日することで感染拡大に繋がるという見方が強かったが、開会式の時点で海外選手の感染が確認されていたほか7月に入った時点で既に増加傾向が鮮明になっていた。先月25日には日曜日では過去最多の感染者数を記録するなど感染者数の増加に歯止めがかからない状況だ。このような中盆休みが目前に迫っており、これまで通りおそらく他府県への移動を自粛するよう要請がなされるかと思われるが度重なる「緊急事態宣言」に疲弊した市民がどれだけ従うのだろうか。アスリート達が見事栄冠を勝ち取った一方で「東京五輪をきっかけにコロナ禍の重圧が更に強まった」などと語り継がれるのはあまりにも残念だ。各国のワクチン普及を受けて秋以降は回復期に入るという見方が強いが、感染拡大の中で新たな変異株が見つかるなんてことにならないだろうか。政府には今まで以上に強い緊張感をもってこの難局に臨んで欲しい。
感染拡大を防がなければならないのはもちろんのことだが、他方でコロナ禍の影響を受けた企業に関する施策についても適切な支援が行き渡っているとは言い難い。中でも「ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応する」ことを目的として掲げ、1兆円を超える大型予算が組まれた「事業再構築補助金」については新規性や売上構成比率に対して高いハードルを課していることから大半の企業にとっては検討の対象にすら入らないのではなかろうか。中でも事業計画期間を3~5年と定めているが、中小企業にとって5年以内に新分野における新製品を完成させ、更にこれまでと全く異なる販路を開拓するのは至難の業と言って良いだろう。鋲螺業界ではある老舗商社が申請を検討するも、政府が求める要件を満たすことが難しいと判断したため辞退したという話もあった。おそらく同事業はコロナ禍で最も影響を受けた飲食・サービス業を照準に当てたものと思われ、政府が示す活用イメージもその大半が「新サービス」に向けられているが、モノづくり企業にもポストコロナに応じた変化の機会を与えるべきではないだろうか。
本紙「金属産業新聞」は本号をもって1946年の創刊より第4000号を迎えるが、病禍によるここまで大きな変化というのは本紙にとっても前例の無い出来事だ。新型コロナだけでなく、脱炭素社会への移行そして超大国のパワーゲームと時代が動く要素が数多くうごめく中、今後も業界の変化を発信し続けられるよう努めたい。