企業間の取引で代金を支払う際の紙の約束手形について経済産業省は2026年度を目途にして廃止することを目指す。今後、産業界や金融業界に対応を求めていく方針だ。利用している企業は対応を迫られる。
約束手形は明治時代以来からの日本独自の商慣行で、支払人(発注側)が代金の受取人(受注側)に対して所定の期日に決められた金額を約束する証書。発注側は支払期日を先延ばしにできるため手元に現金がない場合でも、余裕をもって支払金の準備ができる。一方、受注側は現金化までに数カ月かかり、受注側の中小企業の資金繰りを圧迫している要因のひとつになっていた。
約束手形は90年代に入って企業の資金不足の解消や資金調達の多様化で減少傾向にあったが、取引先から支払いを受けるまでに時間のかかる建設業や、販売先が多く振込手続きが煩雑な卸売業などで未だ約束手形が使われやすい状況だという。
26年度を目途にした約束手形の廃止に向けて同省は、産業界や金融業界に行動計画を策定するように求めている。この中で、下請けに発注する側の大企業から先行して廃止することや、この代わりとして現金振込や電子手形への移行を進めること、さらにこれら代替方法でも支払いの期間を短くすることを促している。この政策に関連して同省は、約束手形の支払期日を現行の最大120日から60日に短縮する方針も決めており、24年を目途に発注側企業に遵守することを促している。
これら政策を受けて(一社)全国銀行協会は約束手形の「全面的な電子化」と26年度目標の紙の約束手形の廃止に向けた自主行動計画を策定すると発表した。これと併せて小切手についても「全面的な電子化」を26年度目標に定めた。これらを電子化することで環境コストや、印刷や保管といった物理的な手間やコストを抑えられるメリットもありDX化が進むと見込まれる。一連の動きによって、経団連など産業界側の対応も注目されるところだ。
紙の約束手形の廃止、また期限の短縮により、ねじ・ばね業界でも受注側企業にとっては、手間や資金繰りにおけるメリットが生まれる。一方で部品などを調達する発注側メーカーや商社で約束手形を利用している企業は、支払手段の移行も含めた検討が迫られる。こうした動きを受けて受注側企業からの要望により約束手形から現金振込に移行した企業もあると聞いた。移行に当たっては、まとまった資金が必要になるため負担は大きい。現金振込、また電子化のいずれかの移行にせよ26年度を見据えて、計画的に徐々に準備を進めていくのが最善ではないだろうか。さらに電子化については、これらに対応する自社の環境整備も企業は求められてくる。