昨年はコロナ禍によって世界中が困難に陥った1年だったが、今年は昨年を超える更なる困難に見舞われるかもしれない。変異種の脅威が増しつつあるコロナ禍に加え、バイデン氏が米国の大統領となったことで当面の間政治的に不安定な時間が続くだろう。産業界への影響としては就任初日に気候変動問題に対して消極的だった前政権の方針を転換させており、またグリーンエネルギーの促進を公約として掲げていたことからも最近になって日本でも盛んに取り上げられるようになった「脱炭素」の世界的な潮流はこれで決定的なものになったと思われる。
その中でEVをはじめ電動車の開発が加速するのは必須だろう。以前から指摘されるようにEVはガソリン車と比べると部品点数が著しく減少する。小さなサイズ帯の製品とシャフトに代表されるような大きなサイズの製品が残っていく一方、エンジン車でよく見られるM20前後の中間サイズの製品は必然的に少なくなっていくことが予想される。前号の時評でも触れたが、電動化への対応はファスナー業界だけに留まらず国内自動車産業の大きな課題となっていくだろう。
もちろんコロナ禍も引き続き対処すべき課題であることに変わりはない。しかし現状では第三波の最中出口が見えない状態が続いており、大きな希望となっていたはずのワクチンについて一般向けの接種スケジュールが白紙のままとなっているなど不安要素ばかりが表に出ている。この現状について「withコロナ」ではなく感染を封じ込めてから経済活動を再開する「zeroコロナ」を目指すべきという意見も見られるが、第二波までの段階ならともかく市中感染がここまで広まってしまった後では難しいのではないか。国内の累計感染者数は35万人以上ともはやヨーロッパと同程度の水準にまで増大してしまっており、死者数も5000人近くを数えるに至っている。
国内ではこのような厳しい情勢が続いているが、隣国である台湾では3月に工作機械及び関連製品の国際見本市である「TIMTOS(ティムトス)」を開催するという。先月には主催者を交えたオンライン記者会見が行われ、実に25カ国以上より100名近い報道関係者が視聴するなど国際的にも大きな関心が寄せられていることが窺われた。台湾は各国が第三波に苦しむ中新規感染者数を極めて低い水準に抑えることに成功しており、コロナ禍が続く中国際的な見本市を開催するという困難な事業に挑もうとしている。同展は現地とオンラインの両方を運営するハイブリッドな展示会として企画されており、渡航が難しい関係者にも開かれた内容となっている。コロナ禍における経済活動のあり方を示してくれるだろう。同展の成功を願いたい。