バイデン氏は「分断するのではなく団結させる大統領になると誓う」と勝利演説を行った。近年の重要なキーワードのひとつとなっている分断。それは貧富の差の拡大や、強固なリベラル・強固な保守といった政治的立場の二極化の例が示すように、一定数いた中間層や穏健派が消滅し、二分された層が折り合えない/折り合わない状態を指す。
トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を作るような人だった。そんな彼が行ってきた「本音の政治」は粗暴だが、ある層の心を捉えていたのもまた事実である。改めて自分の環境に置き換えて考えてみたい。もしも日本が周囲を海に囲まれておらず、周辺国と地続きだったら壁建設に反対できるだろうか…。
トランプ大統領による選挙不正の主張は民主主義を損なうとの批判がある。そもそも、近年では民主主義自体が後退しているという指摘もあり、そのシステム自体を見直す動きもある。
18世紀、王政のフランスでは人口の2%に過ぎない特権階級が贅沢な暮らしをし、それ以外の民衆は貧困にあえぐという不均衡な状態にあった。民衆は怒りの余り王であるルイ16世とマリー・アントワネットを捕らえ、市中引き回しにした後ギロチンの公開処刑に処す。フランス革命である。従来の君主主権を覆すこの革命に至った背景にはルソーの人民主権の思想があった。
革命の結果、「地位や財産によらず男子の選挙権を認める」という成果を得たものの、その後もゴタゴタは続き、紆余曲折しつつ今日の民主主義へと続く。根底にあったのは圧倒的な経済格差と搾取の構造である。
最近では世界規模で活動する巨大IT企業に富が集中し、21世紀は企業が超大国の役割を果たすのではないかという考察も見られるようになった。余談だが、儒教由来の士農工商において、商の地位が低く設定されている一因には、個人である商が富を蓄積しすぎると権力者を脅かす存在になりかねない、という理由がある。
アダム・スミスは「個人が欲望の赴くまま自由に活動すれば皆が幸せになる」と唱えた。現代はそれが少し姿を変え、国家運営は新自由主義に基づいて行われている時代である。規制緩和と小さな政府が潮流としてあり、そのメリットの反面、格差を生んだ要因とも指摘される。
グローバル資本主義によって世界の豊かさは底上げされ、平準化に向かっている。単純労働が途上国に流れた分、先進国の中間層が没落するのは自然だ。その歪みから登場したのがトランプ大統領だと言える。その意味では反グローバル、保護主義の流れも必然だった。分断について、しばらく問われそうだ。