品質・価格・環境―、めっき業者のジレンマ

2020年11月9日

 行政処分理由―。当該事業場から公共下水道に排除された下水について、当局において水質検査を行ったところ、複数回にわたり下水道法(中略)下水道条例(中略)の規定に違反していることが確認された。また、平成〇〇年以降の度重なる違反に対し、当局から繰り返し行政指導を行ったにも関わらず十分な改善がなされていないことから、今後も下水排除基準に適合しない下水を排除するおそれがあると認められる―。これは下水道局が公示している文面だ。
 2年ぶりに本紙は表面処理特集を組んだが、その期間、東京及び周辺でめっき業者の廃業が進んでおり、各企業を取材して回ったが、事業環境について様々な事が聞けた。
 都道府県や市区町村といった地上の行政区分とは別で、地下には我々が気づきにくい下水道局における管轄の境目(縄張り)があり、自社工場から僅かな距離に川側(上流)だと排水基準の数値が厳しく、海側(下流)だと厳しくない事もあり、業者の事業環境として立地条件は重要となっている。また下水道局の担当が交代するとチェックが厳しくなったり、自動採水器を使用して摘発というケースもあるそうだ。
 さらに移転・廃業するにも、長年事業を行ってきた土地の土を除去して、遠隔地の専門処理施設で浄化しなければならず、費用問題で「円満で計画的な会社解散」としての廃業すら難しく、「辞めるに辞められない」状態も多いようだ。そして使用する水がきれいな土地(山側・上流)を求めながらも、排水基準の厳しくない土地(海側・下流)を求める―。世の中に必要とされながらも環境を犠牲にする事業だと思わされる。
 環境基準を重視すれば処理設備や中和の水で費用がかさむ…。品質(機能・性能)を向上させようとすると時間、電力、手間(人件費)が掛かって費用がかさむ…。そして費用の為に価格を上げると発注が来ない…。これが現在めっき業者の多くが抱える、①品質、②費用=価格、③環境―のどれかを犠牲にしなければならないジレンマで、健全な経営が難しい状況なのが推測できる。
 なぜここまでなってしまったのか?端的にいえばユーザーが「多くを求めすぎ」たのだろう。前述3点の他にも、④小ロット、⑤短納期、⑥検査工程も追加―等で業者への要求は年々増大しながら、バブル期やリーマンショック前の価格維持を求めたり、過度に安価な業者を基準とみなして他社に発注したりする(そしてその安価な業者は経営が立ち行かなくて廃業したり、環境基準で行政処分があったりする)。
 めっき業者に限った事でないが、そろそろ製造業全体で過剰品質・サービス&低価格の悪循環を断ち切らなければならないのかもしれない。

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