2019年は米中貿易摩擦という血を流さない戦争が世界経済を混乱させながら過ぎたが、20年に入った途端、今度は中東のイランと米の血が流れるかもしれない軍事衝突が起き、本格的な戦争に発展してしまわないかとの不安が広がっている。これら世界的な事象が日経平均株価を上下に変動させることはあるものの、肝心の日本経済の実態からかけ離れて動いているようにも思え、国内の大手企業はともかく中小企業が完全に蔑ろにされている。
ねじ産業は世界的な設備投資ニーズに比例して好況だった18年に対して、19年は業績を落とした企業が多く、材料費や人件費、光熱費などの固定費の上昇により収益で苦戦した企業が大半を占めた。ユーザーは年々品質に関わる要求を厳しくする一方で、値下げ要請は強めるという矛盾の動きにより、検査や選別等のコストが上がっている一方で、そのコスト増を製品価格になかなか転嫁できないジレンマを抱える企業が多い。コスト競争から離れた製品・サービス分野への展開は各社の喫緊の課題だろう。
本紙は今回の新年特集号のアンケート調査の中で今後注力したい取組みについて聞いた。この中で上位の回答として「営業体制の見直し・強化」「人材確保と育成」「既存製品・サービスの高付加価値化」が挙がった。
本稿では「既存製品・サービスの高付加価値化」に注目したい。低価格競争から脱却して自社の主力製品・サービスをいかに「高く売るか」は今後の業界のテーマであろう。
特殊リセスを武器にしてロボット自動化技術との組み合わせでサービス展開を図る企業がある。締結不良を起こしにくい特殊リセスとドライバーにより推力が低い汎用型の小型協働ロボットでも自動ねじ締めを可能にすることで、ねじを高付加価値化する一方で、自動化設備を低コスト化、トータルの設備投資を抑えられるという狙いだ。
このサービスはロボットを活用した自動化システムにおいてファスナー技術がキーテクノロジーになっている。
これまでと違う分野で既存製品の価値を上げる取組みもある。ドローンやロボットを試作するスタートアップ企業や大学の研究室をターゲットに低頭ファスナーの専用セットを販売する商社。医療機関や模型用などマイクロねじを少量ストックして小売りするメーカー。いずれも数量を追わずに少量高単価で利益を確保する仕組みだ。
サービス産業ではサブスクリプション(定額制サービス)がトレンドになっている。製造業界でも取り入れる動きがあり、ファスナー業界でも先陣を切るビジネスモデルの誕生に期待したい。