業界で活躍する人材の教育水準の底上げ、また見える化による報酬制度の透明化を目的に資格制度を確立する業界団体は多いが、ニッチな業界を一般社会に広く理解してもらう目的で、手軽に受験できる資格制度を作る動きが目立ってきた。
業界外にいる一般消費者やユーザーに対して、業界の基本的な知識を理解してもらうことで、取引や購入といった機会を円滑にして、互いのメリットを生み出そうという試みだ。最近では、「日本酒検定」や「野菜ソムリエ」といったものを例に、商品を購入する際に役立つ知識を売りにする資格も多い。うんちくが好きな日本人が、豆知識を披露するためにこうした資格検定を好むという流れもあるだろう。
(一社)日本工作機械工業会は、昨年より「工作機械検定」を実施している。製造業界に従事する人だけでなく、一般の人々に工作機械とはどんな機械なのかを知ってもらい工作機械業界の認知度を向上させる試みだ。大きな特長は受験の手軽さといえる。名前とメールアドレスを登録すれば、ウェブ上で受験ができる。初級の問題は、工作機械の役割や種類、歴史や市場など、幅広い観点から工作機械への知見を深めてもらう内容だ。合格するためには、ウェブ専用ページのヒント集を閲覧することで受験勉強ができる。中級は機械工学を勉強している学生や工作機械業界や機械メーカーに従事している人向けに、初級より少し難易度を上げた問題が出題される。
初級については、工作機械業界に接点のあるユーザーや製造業関連の営業マンでも「ウェブで無料だし、ちょっと電車帰りの時間を利用して受験してみようかな」と思える手軽さがある。こうした基本知識をもった資格者が社会全体に増えれば、工作機械業界にとっては様々なメリットが生まれるはずだ。資格者が業界内にいなくても良い。その資格者は工作機械の取引を適正に行える良き理解者になるかも知れないし、将来、工作機械業界で働きたいと思えるきっかけを若者に与える伝道師になるかも知れない。
ねじ業界はどうか。ねじ製造技能検定やFE検定など業界内の人材を育てる資格制度の運用がようやく始まっている段階だ。業界内の教育制度を充実させていく試みは正しいはずだ。同時に前述のように、業界の基礎知識を業界外の一般社会に広く浸透させるための制度も必要ではないか。ユーザーの知識不足により、ユーザーからの無理難題がそのまま商社を経由してメーカー側に伝達されるといったケースが以前より問題となっている。一般社会では誰もが知っているねじだ。知識を深めてもらう資格制度があっても良い。キーワードは、「気軽さ」と「ウェブ活用」だろう。