3月の年度末で各企業が忙しくなる時期だが、時評子が企業を訪問する前に電話を掛けた際、「(我が社から見て新規ユーザーが)従来の取引先が値上げを行うので我が社に切り替える事を考えてのようで、見積もり依頼で忙しく日を改めて欲しい」とあった。
また別の企業訪問時には、経営者目線とは別に一消費者目線で事業所や周辺地域の景況感についても聞いた際、「事業の業績はあまり伸びてはいないが、物価は確実に上がっていて、特売の機会が減ったり、食料品では値段は変わらなくても分量が減っている」との事だ。この気付かれないように量を減らして実質値上げを行う事を最近では「ステルス値上げ」、もしくは内容量が縮小(シュリンク)する為「シュリンクフレーション」などと呼ばれているそうだ。
さらに別の企業に訪問時は「一回の取引量は少なくなるが、加工・納品の手間は多くなる一方で、利益は増えずに〝割に合わない〟事も多い」との意見に続き「しかし仕事終わりや休日に消費者として買い物をしていると、分かってはいるが100円ショップやディスカウント品の店で買い物をする機会が多い」「バブル時代の浮わついた状況も異常だったが、崩壊以降の失われた20年や30年といわれる不況で、カネを払う事(消費)への過度な抵抗感もまた問題」―とも話していた。
食品等は〝お値段据え置き〟で分量を減らして対策をとれるかもしれないが、ねじ・ばねをはじめとした金属加工品(工業製品)は、メーカーは規定の材料を仕入れて規格や指示書通りに成型する加工賃。商社はそれらを仕入れて保管して必要な時に供給するサービス等の手間賃―として売上・利益を出しており、ユーザー・消費者の手に入る製品自体の質を落としたり、量を減らす「ステルス値上げ」は出来ない。
コストダウンが出来るとしたらエネルギー(電気・ガス)・備品(工具・機械)・人件費―等の会社の事業に必要不可欠な部分ばかりで、特に人件費に跳ね返るとなると、従業員達そして経営者も一消費者である事を忘れてはならない。デフレからの脱却」と提唱されてはいるが、政府は小手先の対処療法ではなく躊躇わず消費できる「デフレ〝マインド〟からの脱却」に繋がる、相当な荒療治そして長期的な体質改善となる政策が無ければ、今後の健全な経済成長は期待できない。
ヒト・モノとカネ―。経済の初歩かもしれないが、買い叩く事もあれば買い叩かれる可能性もある。質・量を求めながら過度に安物買いを進め、消費者として財布の紐が固く締まるほど、巡り巡って事業者の首が締まっていく。〝良いモノ、そしてサービスを安く〟には限界がある―。私達個人レベルでの理解も必要だろう。