【表面処理技術の今】耐食性や付加機能が進化 環境技術も注目高まる

2024年11月18日

 ファスナー機能の進化にともない表面処理技術の重要度も増している。現在どのような技術が使われているのか。「表面処理技術の今」を特集する。(4面から6面に特集記事、次号に続く)
 電気めっき業界における生存競争が激化している。リーマンショックのあった2007年には1422あった事業所が2022年には1063に減少し(政府調べ)、その背景には後継者不足や排水規制への対応難、利益が十分に取れない状況が挙げられる。特にファスナー業界向けの業者では、数少なくなる企業へ加工依頼が集中して加工賃の上昇が見られている。廃業しためっき業者からの引き継ぎで加工賃が倍以上となる例もあるが、これは従来、ファスナー企業がめっき業者に対して適正料金で加工を依頼していなかった現れでもある。表面処理技術はファスナーに欠かせない技術だ。ファスナー業界はめっき業界と共存共栄するため連携する取組みが求められる。
 亜鉛排水基準の強化もめっき業界に影響を与えている。水質汚濁防止法にもとづいて2006年12月より水質基準が5㍉㌘/㍑から2㍉㌘/㍑に強化され、現在、電気めっき業者は唯一暫定的に緩和措置(4㍉㌘/㍑)が適用されているが、この延長期限が今年12月10日に迫っていた。環境省によると、対応できない企業がいる実態を考慮して、緩和措置が再び延長される見込みだが、企業には引き続き設備投資の対応が求められている。特に中小規模の業者は新基準対応の設備投資が困難であり、こうした費用を取引先に転嫁できない状況が業界全体の問題となっている。また、2022年にはファスナー向けも対応していた都内の業者が不適切な排水処理で摘発される事件が発生。排水規制の強化による事業運営への圧迫が一層強まっている。
 めっき浴薬剤に使用されているシアン化合物(青化ソーダや青化カリ)の供給不安も新たな課題である。日本国内で唯一のメーカーが生産拠点を2024年末で閉鎖することで、今後めっき業界は輸入に依存することになる。これにより仕上がり品質の高いシアン浴からの代替浴へのシフトや、調達方法の見直し、調達コスト増、シアンフリー技術の開発、めっき種類の変更への対応が急務となっている。
 このような課題を抱えるめっき業界では、各企業が独自の技術を駆使し、差別化を図っている。
 自動車部品業界向けのファスナーに対応するため、自動ラインでの大量生産を強化する企業もあれば、特殊な処理や手作業での小ロット対応に注力する企業もある。トップコート技術においても、耐食性や摩擦係数の安定化などの機能が多様化し、各社が独自の薬剤を応用して品質を追求している。また、REACH規制に対応するためのクロムフリー技術の開発や、省人化に対応した自動化ラインの導入も進んでいる。新たな技術の導入には設備投資が必要だが、限られた資金の中で競争力を維持するために各社が模索している状況だ。
 各企業は環境対応の強化をアピールするために、新しい排水処理技術や無害な薬剤の導入に努めファスナー業界との協力関係を強化している。また、ファスナー生産の二次工程である梱包や検査工程を加え、付加価値を高める取り組みも注目されている。