公正取引委員会は3月7日に某大手自動車メーカーに対して下請代金支払遅延等防止法(下請法)の違反を認定して勧告を行った。大手組立メーカーの下請け部品メーカーへの悪質な違反行為に対する監視はさらに厳しくなる見込みだ。
公正取引委員会の発表によると、同自動車メーカーは令和3年1月から令和5年4月までの間で自社の原価低減を目的に下請代金の額から「割戻金」を差し引いて一方的に下請代金の額を減じていた。減額した金額は下請事業者36社に対して30億円超にのぼる。同自動車メーカーは下請事業者に対して減額した金額を既に支払っている。
大手組立メーカーの〝下請けいじめ〟は、各所で存在していることは間違いないのだろうが、なかなか明るみになりにくいものだった。経済産業省や公正取引委員会による下請け取引の実態調査は定期的に実施されておりねじ・ばね業界にも調査が及んでいる。しかし取材先で聞いてみても「仕事がなくなる覚悟がないと書けない」と言った声が上がっていた。この調査は告発者側の秘匿性が保証されるうえで実施されているものだが、大手企業とその受注に依存している中小下請け企業の関係性を見れば、下請け側が自社の実状を偽りなく回答することを躊躇するのは十分に理解できるものだ。今回の違反が明るみになった詳細な経緯は不明だが、告発した企業がいるのであれば相当な覚悟があったことが推測できる。
公正取引委員会は3月14日に、(一社)日本自動車工業会に対して今回の違反をはじめ違反行為事例の周知と、未然防止の取組みや今後の価格転嫁に係る法令遵守や、原価低減要請の在り方などを検討して取引適正化を進めるように要請した。
今後は下請け違反行為に対する取り締まりがさらに厳しくなるだろう。政府は物価高騰に対応する企業の大幅賃上げ達成を目指しているが、大手の中小に対する下請け違反やそれに準じる不適切な取引行為が、日本企業の9割超を占める中小企業の賃上げを阻害している大きな要因であることに理解を深めてきたからだ。今回の発表はその一部に過ぎないだろう。公正取引委員会は、この発表の数日後に「優越的地位の濫用」に関する調査で、取引価格の据え置きなどで多く名前の挙がった発注者側の企業10社を公表している。
特に下請け違反行為が多いとされる自動車業界は、業界団体が率先して違反行為を防ぐための新たな指針の構築、さらに啓蒙活動の推進が求められる。
自動車産業と同じサプライチェーンにあり、さらには業界内でも下請け取引が存在する、ねじ・ばね産業でも率先した適正取引の推進が必要となる。