精密ねじ業界の今年の景況動向が注目される。コロナ禍でIT関連機器の巣ごもり需要にともない一部メーカーでは好調な生産推移を見せていたが、完成品/ユニットの在庫過多などにともなう反動減で昨年は低調に終わった。今年回復が本格化すると見込まれる半導体需要や〝モノの電子精密化〟で再び需要を伸ばすか。
コロナ禍では景気減速により世界的にも停滞した産業が多かった一方で、巣ごもり需要によるパソコンやサーバー、ゲームなどIT関連機器の分野は活況となり、一部の精密ねじメーカーの生産が伸びた。しかしこれら分野はサプライチェーンが混乱したコロナ禍で需要家の先食い、供給側の過剰生産、そしてこれらが引き金になったとも見られる半導体不足の影響にともない、昨年には多くの精密ねじメーカーの生産が減速した。
一方で半導体関連市場の先行きは明るい見方が強い。半導体需要の指標ともいえる半導体製造装置市場を見ると、SEMIは昨年12月に2023年の市場規模を過去最高であった前年から6・1%減の1000億㌦となる見込みだと発表した。24年は回復傾向となり前年比4%増の1053億㌦、25年には過去最高の1245億㌦に拡大することを予想している。WSTS(世界半導体市場統計)は30年に世界半導体市場を1兆㌦まで見込んでいる。ロボットやAIの進化など、人がより快適な社会を貪欲に目指している今、半導体はなくてはならない要素であり今後もさらに市場拡大する見方は間違いないだろう。
また、かつての精密ねじの主要供給先であったスマートフォンやカメラなどの精密機器に加えて、主戦場になっているのが自動車ユニットだ。電子制御ユニットが多く搭載されてきている自動車は〝動く精密家電〟に近づいてきており、この流れはEV化によりさらに本格化する見込みだ。
精密ねじメーカーは商社取引をメインとする企業が多いが、その先にあるユーザーが自動車関連分野であるケースが増えており、これをターゲットに今後の需要拡大を見込んで、加工能力の強化を目的にした設備投資を図る動きも一部メーカーで見られる。また自動車ティア1と取引する商社では、電子制御化にともない樹脂部品に注目して設備投資やM&Aを図る動きも一部で見られる。
半導体市場の拡大が見込まれるが、懸念事項に挙げられるのは同産業を挟んだ米中の対立激化だ。サプライチェーンの占有を目的にした材料や最新鋭の製造装置の貿易規制対立の強まりが景況を見えにくくしている。無論、この不安定要素の影響は半導体市場だけが被るものではなく全ての産業に関わるものであるので注視したい。