能登半島地震の発生から3週間が過ぎたが被災地では未だに多くの方が困難な状況に陥っている。このような悲劇をもたらす大地震は存在しなければそれが一番良いのだが現代日本は残念ながら地震と共に歩んできたと言っても決して過言ではないだろう。振り返れば今回の地震をはじめ熊本地震、大阪府北部地震、東日本大震災、中越地震、阪神・淡路大震災とおよそ30年の間にこれだけの大地震が発生している。前号の小欄でも述べた通り災害の発生を防ぐことは不可能に近いが、災害に対する備えは今後一層意識されなければいけない企業の課題になると思われる。経営者として「いかにして成長するか」だけではなく「いかにして災害時に適切な形で原状復帰を遂げるか」、すなわちいかにレジリエンスを担保するかを考えていかなければならないだろう。また業界に関係するところでは鋲螺(ねじ)は構造物を支える重要な部品の一つであるが今回の地震を受けて改めて建物の安全性に関する問題、特に老朽化が進んでいる構造物の耐震性及び防振性をいかにして確保するかという課題が浮上することが予想される。
今年は大地震から始まった一年となってしまったが、一方で景況感について見てみると実体経済については昨年末に発覚した自動車メーカーによる品質不正問題の影響などもあり先行き不透明な状態が依然として継続している一方で金融経済については日経平均株価がバブル期以来の高値を更新するなど乖離が見られている。大手メディアが報じるところでは大企業を中心に今春の賃上げを表明する動きがあることからデフレ脱却に向けた期待も兼ねているとのことだが、国内の大半を占める中小企業が置き去りになっている感が否めない。
1月中旬に中小企業庁が公表した中小企業の価格転嫁に関する調査結果を見ると「コストが上昇せず価格交渉が不要」と回答した企業の割合が前回調査比で倍増しており、コスト上昇については一服感が見られている。また「発注企業側からの申し入れにより交渉が行われた」と回答した企業の割合は前回踏査では1割に届かない程度となっていたが今回調査では1割強とほぼ倍増しており、中小企業の価格転嫁については一定の流れが出来つつあると見ることができよう。2024は長きにわたり続いてきたデフレから脱却する年として期待されているが、30年続いてきたデフレ経済のマインドセットを取り払うのは容易ではないだろう。その一端がこのアンケート調査にも現れているように思われる。中でも価格転嫁の流れが醸成しつつある一方で「全く転嫁できず(もしくは減額)」と回答している企業が依然として2割近く存在しているという事態を政府はもっと重く受け止めるべきではないか。