今年は「省力化イヤー」、 人手不足と賃上げの鍵に

2024年1月8日

 本紙は2024年を「省力化イヤー」と位置付ける。企業は人手不足が深刻な問題となる一方で急激な物価上昇にともなう賃上げが求められている。2つの課題に対応する「省力化」が鍵となる。政府もようやく省力化に着目して政策に本腰を入れる。
 政府は昨年11月に令和5年度補正予算案に「省力化投資」への補助金を新設した。企業の省力化に焦点を当てた補助金事業は初。「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」と「中小企業 省力化投資補助事業」にそれぞれ1000億円が盛り込まれる。
 「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」は工場の拠点新設や製造ラインシステムなど大規模な設備投資向けの事業で、補助上限額は50億円、投資下限額は10億円と大規模投資向けの補助金となる見込み。
 「中小企業 省力化投資補助事業」は中小企業等事業再構築促進事業を再編した事業で、IoTやロボットなど人手不足解消に効果がある汎用製品をカタログから選ぶ方式で、補助率は2分の1。補助上限額は従業員数5名以下の企業に200万円、従業員数6~20名に500万円、従業員数21名以上に1000万円とする。賃上げを達成した場合はさらに上限額が引き上げられる。
 本紙が「自動化」ではなく「省力化」をキーワードにした理由は、人手や人の技術は引き続き必要不可欠であり競争力の原動力として必要になると見るからだ。永続的な生産効率を求められてきた製造業では、完全な自動化ではなく必要な工程、人でなければできない作業、コア技術業務に人を集中させて、必要でない工程を自動化させることで省力化を達成させているケースが多く見られる。人が介在する箇所と自動化できる箇所を細分化させてリードタイム短縮を達成させるケースもあった。他社が真似できないコア技術は人が介在しているケースが多く、この箇所に人を集中させて、誰でもできる箇所を自動化させ負担を軽減させる発想が求められてくる。
 有力ファスナーメーカーでは、海外拠点の現地オペレータ確保に向けて、日本では職人技術が当たり前のように求められてきたフォーマーの段取工程を、センサー制御のサーボ式フォーマーで簡易化、製品品質を段取り技術に頼らず、精密なクリアランスを持つ金型精度のみに反映させるための省力化に意欲的に取り組んでいる。人の技術の介在を段取りではなく金型製作に集中させて省力化を目指す好例だ。
 中小企業の省力化設備にもロボットが主役として躍り出る可能性がある。政府が進めるロボット政策の課題では、産業ロボットの技術が世界でもアドバンテージを保っているものの、今後ロボットがインフラ化する中で、例えば汎用性の高い協働ロボットが専門家ではなくても誰でも扱え制御できる仕組みが必要で、さらにロボットと組み合わせるユニットの互換性の高さや他社製ロボット間の連動も必要になってくる。経済産業省のロボット政策室によると、インターフェースの標準化や規格の統一など議論が始まっているほか、中小企業のロボット導入事例の情報の吸出しにも注力している。
 ファスナー需要の観点からみても、今年増加が見込まれる省力化投資はロボットや省力機器、このほか関連する設備投資にともなうプラスの影響が期待される。「省力化イヤー」を機にした、ファスナー業界の先進的な省力化モデルの登場と需要が注目される。