大手先行の賃上げ、中小との二極化に懸念

2023年8月14日

 経団連が4日に発表した2023年春闘の大企業136社の妥結結果によると、賃上げ率の平均は3・99%で1万3362円の増だった。来期に継続した賃上げが進むのか、また中小企業へ同水準の賃上げムードが拡大するのかが注目される。
 岸田政権は賃上げを「最重要課題」と位置付けているが、それに見合った包括的な政策が機能しているのか疑問である。日本経済を立て直すうえで賃上げは不可欠だ。ただし時評子はかねてより、賃上げは第一に中小企業の価格転嫁を大手ユーザー側が受け入れなくては達成できないと主張してきた。大手企業が中小企業より先行して賃上げを推し進めていることは、中小・大手で賃金水準の二極化を生まないか懸念される。
 賃上げするには企業のこれまで以上の利益の伸びが必要だ。物価高騰に応じた価格転嫁が求められる中、下請けが求める値上げを未だ発注側企業が100%受入れていない現実がある。ファスナー業界でも、ようやく値上げ受け入れマインドは強くなっている傾向にあると見られるが、中身を見ると鉄鋼材料の高騰分や一部の副資材といった数値エビデンスを示しやすい分のみの値上げに限られているように見られ、下請け側の純粋な利益となる加工賃やサービス料が変わらない、さらには圧迫されているケースも多いのではないだろうか。
 本来の値上げ分を100%反映していない価格で発注業者が製品を購入するのは、下請けが値上げ分を自社で賄うことになり、発注側がその分の利益を得られる不均衡な構図を意味する。
 この状況では下請け側は利益が圧迫されて賃上げどころではない。発注側の頂点となる大手企業が国の政策に準じて賃上げを高らかに実施しているが、発注側が前述の通り利益を得ているのであれば賃上げは中小下請けよりも比較的容易となる。または、そのための利益を確保しようと価格転嫁の受入れがさらに進まない環境を生み出してしまわないか。このため国が講じるべきことは、大手企業に先行した賃上げを求めるのではなく、まずは大手企業に下請け中小の価格転嫁受入れを促進させて中小下請けに十分な利益をもたらし、中小側から自主的に賃上げを進める環境を作り出すことだろう。
 次号に詳報する賃上げの実施状況に関する本紙アンケート調査によると、「例年より高い賃上げを実施した」企業は5割を超えた。「例年通りの賃上げ」を含めると8割超を占めた。前述のような環境の中で、ねじ・ばね業界が賃上げを実施した事実についてはプラスの材料として捉えたい。一方、各社がこうした経営判断を次年度以降も継続して実施できる環境づくりを国は求められている。

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