三協精器工業㈱(大阪市東淀川区、赤松賢介社長)は、北海道工場(士別市)を開設して7月14日に稼働を開始した。製造業と農業を組み合わせた新たな取組みでグループ全体の事業を強化していく。
同社は線径0・02㍉から20㍉の幅広い線ばねを製造するメーカーだ。ばね製造事業をもつ一方で、2018年からはM&Aによる飲食事業に参入。翌年に士別三協㈱(士別市)を設立して羊の牧場を運営する農業事業と、その羊肉を使った「士別バーベキュー」(札幌市、大阪市)を運営する飲食事業を展開している。士別市との結びつきを深めてきた中で、22年に同市と包括連携協定を結び北海道中央農業共済の土地を購入。北海道工場を立上げて、ばね製造を開始する。夏が涼しく自然災害が少ない同市に製造拠点を持つことでBCPに適応しながら、地域の雇用活性化に貢献していく。
北海道工場は手始めにコイリングマシンなど12台を導入する。熊本工場から異動した工場長ら2名と現地採用の1名の計3名から稼働を開始。OA機器等向けの小径ばね部品と、現地ユーザーでもある農業機械メーカー向けの太径製品を製造していく。今秋には東京ドーム1・3倍の敷地面積まで拡大して、その後は第2工場の建設も計画する。拡大に応じて人員も増強していく。
大阪、熊本、メキシコに工場を持つ同社は、自動車の次に多い仕向け先が農業機械だ。士別市での農業事業の展開は、自社グループで農業機械を使いユーザーとなることで顧客である農業機械メーカーとの関係をより強化していく狙いがある。コア事業である、ばね製造の拠点を北海道に開設したことで、これまで本社工場に集約して製品を供給してきたが、同工場を起点にして道内の農業機械メーカーに供給するといった物流体制もとれるようになる。
7月12日には北海道工場にて開設式と士別市役所で渡辺英次市長との共同記者会見、また市内ホテルで開設御礼会が行われた。
渡辺市長は記者会見で、「士別市は一次産業が主力で製造業が少ない。精密部品メーカーという新たな分野の企業誘致となる。課題である人口減に対して若者の雇用の場を学校等とも連携しながら作っていく。今後はトップセールスで製造業の企業誘致を進めていきたい」と意気込んだ。赤松社長は「北海道の雇用は7割がサービス産業で製造業に就職したいのに職場がないといった若者の受け皿になりたい。一番重要なのは人だ。今、企業は人財を欲しがっている。優秀な若者が多い地域には企業が集まる。ばね・ねじなど部品メーカーが集積すれば大企業も来る。自社で出来ることは、この会社で働きたいと思われる会社にしていくことだ」と話した。また赤松社長は会見の中で、士別三協で進めるたい肥で牧草を作る事業を本格化することで、グループ全体で二酸化炭素を排出削減するゼロカーボンに取り組んでいくことを明かした。製造業と農業を連携させて、これまでにない新たなシナジーを生み出していく方針だ。(取材=東京本社・大槻)
三協精器工業㈱・北海道工場=北海道士別市武徳町884―324