自由主義から保護主義へ、「ねじの王国」が直面する課題

2023年5月15日

 世界最大級のねじ製品及び関連技術が集まる国際見本市「台湾国際ファスニング見本市(Fastener Taiwan2023)」が今月3日~5日にかけて台湾・高雄市で開催された。同展は今回およそ5年ぶりの開催となったが、5年前と比較すると台湾企業が「電動化」「低炭素」「環境負荷低減」といった昨今国内でも注目が集まる産業界のトレンドを強く意識している姿が印象的だった。中でもEUが導入する輸入製品に含まれる炭素量に応じた炭素税の支払いを求める炭素国境調整メカニズム(CBAM)への関心は高く、ある台湾メーカーの関係者は「現時点では全体像が明らかになっていない」と規制に対する評価については留保しながらも「対応しないと台湾製品が(EU)現地の製品よりも高くなるかもしれない」と危機感を示していた。
 また会期初日に行われた晩餐会では高雄市長が挨拶の中で炭素税の導入について触れ、「ESGに適合するために市政としても協力していきたい」旨前向きな理解を示していた。台湾は2050年までにカーボンニュートラル達成を目指しており、再生可能エネルギーの普及によるエネルギー転換、デジタル技術や低炭素技術を活用した産業転換など「4つの転換」をはじめ実現に向けたロードマップを公表している。台湾産業はねじ類を含め輸出への依存度が非常に高く、世界市場のトレンド、そして主要な相手国である欧米の規制に敏感にならざるをえないという事情はあるだろう。5年前に行われた2018年は「インダストリー4・0」に見られる製造業におけるデジタル革命に注目が集まり、台湾ねじ業界はIoT/AIを活用した製造技術の更なる高度化、品質向上による規格品だけでないファスナーの更なる付加価値向上を目指していたように思う。
 それから時は過ぎ、今回の同展ではユーザーの需要に応えるのはもちろんだが各国・地域の規制やリスクにいかに対応していくかという自由主義市場から保護主義市場への移行の痕跡が現れていると見ることができよう。「ねじの王国」たる台湾はまさに一早くこの課題に直面しており、日本でも自動車メーカーによるEV開発が加速していることや先進国としての国際的地位を重く見るのであれば一国だけ環境対応に背を向けるという訳にはいかず、そのため今日の台湾は明日の日本であると言っても過言ではないだろう。産業構造が異なるため少なくともその全てとまでは言わずとも、台湾の課題に学ぶべき点は必ずあるはずだ。
 なお同展は2年に一度行われているが今年に続いて来年4月にも開催される予定となっている。ねじ業界における世界のトレンドを覗く場として、そしてこのVUCAの時代にあって国際的なパートナーシップを構築する場として同展は今後も非常に重要な見本市の一つであり続けるだろう。来年の開催にも期待したい。

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