賃上げの波及、価格転嫁の促進が急務

2023年4月17日

 中小企業に春は訪れたのだろうか―。国内ではこの春、物価高騰の影響もあって企業の賃上げ(ベースアップ)に注目が集まった。昨年12月に日本労働組合総連合会(連合)がインフレ率を上回る5%程度の賃上げを目安として以来、大企業を中心に賃上げを表明する企業が続々と現れたが中小企業からこの数値に届くような賃上げの声はなかなか聞こえてこないというのが現状ではないか。東京商工リサーチが今年1月に発表した調査結果によると、大企業・中小企業4132社のうちおよそ8割が賃上げについて「実施する」と回答したが、その中でも5%以上の賃上げを実施する予定だと答えた企業は(大企業を含め)3割程度に留まった。また賃上げを「実施しない」と答えた企業について、複数回答による理由の上位は「十分に価格転嫁できていない(およそ6割)」「原材料価格の高騰(5割強)」「電気代の高騰(5割弱)」「受注の先行きが不安(同)」と続いている。賃上げを実施したくとも現在の経営環境では難しい、というのが企業の本音ではないのだろうか。
 前述の調査では8割の企業が賃上げを「実施する」と答えたが、主に関西の業界企業に話を聞いている中では大胆に賃上げをすることで従業員のモチベーションアップに繋げたい、という前向きな話もあった一方で大企業が賃上げを前向きに実施する中で賃上げができないとなると、ただでさえ人手不足で苦労しているというのに人材確保の点でますます窮地に追い込まれてしまう、だから利益を減らしてでも賃上げに動かざるを得ない―というような話もあった。同じく業界企業の話を聞いていると概ね「例年よりも上乗せして(賃上げを)実施する」という声が聞かれたが、それでも中には足元の景気等を理由に「手当等で対応する」という企業の姿もあった。ある業界メーカーでは平均7%という大幅なベースアップを実施するなど一部積極的に行っている企業もあるのは事実だが総じて見ればあまり多くはないという印象を受ける。
 政府は国内経済の回復について大企業だけではなく中小企業まで賃上げの波が波及することが重要だと度々言及しているが中小企業が直面している価格転嫁の問題解決無しに目標とする賃上げの波及はあり得ない。中小企業の賃上げを後押しするため賃上げ促進税制や業務改善補助金といった各種制度を打ち出しているためこれらを活用するのも一つの手ではあるが、今年は先送りになった電気料金の値上げも控えており、コロナ禍関連融資の返済も始まるなど産業界にとっては気が重くなる話題が多い。補助制度の充実はもちろんだが適正な価格転嫁を促す取り組みがまだまだ足りないのではないか。一早く取り組むべきだ。

バナー広告の募集

金属産業新聞のニュースサイトではバナー広告を募集しています。自社サイトや新製品、新サービスのアクセス向上に活用してみませんか。