製造業の部品調達に変化が生じてきている。新型コロナやロシアのウクライナ侵攻、中国のロックダウン政策などグローバルリスクのもとで発生したモノの供給不足は、製造業にサプライチェーンの見直しを余儀なくさせている。これまで日本の製造業が重視してきたコストから、生産キャパ、納期といった要素を優先する傾向も見られる。ファスナー産業も変化が求められる。
製造業の受発注サービスを運営するキャディ㈱(東京都台東区)が今年8月に製造業(食品・繊維・化学除く)を対象にしたアンケート調査(本紙9月26日付既報)によると、2022年以降で地政学リスクや社会情勢の変化で影響を受けた活動は、1位が「海外からの調達」で7割弱にのぼった。
22年の調達課題として検討した施策は「代替部品への切り替え・仕様変更」が最多(50・2%)で、「調達価格の値上げに応じる」(47・9%)が2位だった。実行した施策も同様にこれら施策が上位だった。一方で、検討しているのに対して実行率の低い施策に「仕入れ・加工依頼先(サプライヤー)の新規開拓」があった。こうした結果から、構成部品が入手できず製品の製造が進められない状況において、代替部品や仕様変更、また代替できないものには調達価格の値上げといった、比較的対応しやすい施策が行われており、新規サプライヤーの探索といった施策は実行難易度が高い状況にあることを調査では分析している。
また値上げへの対応状況について「値上げに応じた」との回答が6割を超えた一方で、「値上げに応じた」と回答した人に数量を確保できたかと聞いたところ「しっかり確保できた」と回答した人は、金属加工部品で2割台と少ない。電気部品は1割を切っていた。
調達・購買における重視した観点を聞くと18年調査で最多の5割を占めた「調達原価の低減」が20年、22年ともに4割未満となり大きく低下。一方で「調達先・生産キャパシティの確保」(22年:38・6%)「納期遵守」(22年:41・8%)が上昇。22年はこの2つの回答が上位に躍り出た。中長期的に見直したい観点を聞くと、部長・工場長クラスの回答の最多は「仕入れ・加工依頼先の新規開拓」が6割超にのぼり、次いで「調達先の地域の見直し/分散・移転」が4割だった。
大手製造業では、コスト重視から物流確保重視の傾向が強まる中、海外調達リスクを避けるために生産拠点を日本に戻したり、中国の一極集中から、日本、東南アジアへ分散する動きも見られる。
好調な一方で供給ひっ迫を抱える半導体産業は先端のコア技術を日本で生産する動きが強まっている。
富士フイルム㈱(東京都港区)のグループ会社は約20億円を投じて最先端半導体材料に対応した生産設備を熊本に新設する。CMPスラリーと呼ばれる半導体材料を国内で初めて生産体制を確立する。AI/IoTや5Gの進展、自動運転の普及により半導体の需要拡大と高性能化が見込まれる中で、高品質・高性能製品の安定供給を重視するためとしている。グループ会社は米国・台湾・韓国でCMPスラリーを生産してきた。
ユーザー産業が調達における見直しを進める中で、ファスナー産業の対応が求められる。前述のアンケート調査結果の通り、「調達先・生産キャパシティの確保」「納期遵守」の傾向が強まれば、メーカー・商社ともに供給能力や物流機能の強化が求められるが、自動車産業を代表にして不透明な生産計画で思うように生産販売できなかったファスナー産業の実態は見直されるべき課題だ。災害やコロナ禍で歪みが生じた従来のカンバン方式をどのように改善していくかが注視される。一方、調達先の分散や国内回帰の動きは、企業規模を問わず新規獲得の好機と捉え、各社多様な特長を活かして、これに対応した事業に取組むことが求められる。