コンプライアンス教育が取引現場で求められる

2022年8月8日

 原材料価格、副資材、エネルギーコストの高騰分を自社の製品価格に転嫁することが喫緊の課題となっている。本紙が夏季アンケート調査として喫緊の取組みを聞いたところ「価格転嫁」が最多回答となった。
 材料価格だけなど値上げ要素がひとつに限られているのであれば、価格転嫁する製品値上げタイミングも同調させることが比較的に容易だろうが、現状は原油価格の高騰やモノの供給不足を要因にして材料はじめ副資材、エネルギーコスト、運送費など軒並み高騰しており、それが全てバラバラのタイミングで値上げ発表されていることが、製品の値上げタイミングを難しくしている。さらに値上げ要素が複数あることで買い手側に説明が必要となる価格転嫁の根拠を複雑化させている。
 本紙は夏季特集号より、中小企業庁が公開している「価格交渉ノウハウ・ハンドブック」の内容から、注意しなければいけない取引条件、価格根拠を上手に伝える方法、取引条件に関するルールの策定などを紹介してきた。同ハンドブックでは、原材料価格、エネルギーコストなどの価格転嫁や発注者からの価格低減要請への対応に向けた交渉については、価格根拠を伝えるために客観的なデータを提示する必要性を指摘している。例えば、原材料コスト上昇の根拠を明確化するため、原材料の内訳を明確化し、その価格の推移表を作成したり、発注者から求められた品質水準を達成するのにかかるコストを提示するため、必要な工数、技術的難易度、知的財産の対価を発注者に対して説明する―といった具体例も紹介されている。
 さらに不利な条件下で取引が行われないように取引条件に関するルールを策定して、それを議事録や見積書、契約書などの書面で保管する必要性を訴えている。取引条件を明確化した契約書については、ファスナー業界に適応するひな型を業界団体が公開して共有化することを検討しても良いのではないか。
 一方で、同ハンドブックで示されている価格根拠を明確に伝えるために買い手側に詳細なデータを提供する事については、売り手側のファスナーメーカーからは疑問や躊躇する声も上がっている。詳細なデータを提供するということは、原価とメーカーのノウハウが凝縮された利幅を買い手側に把握されてしまう恐れがあるからだ。価格転嫁の根拠を示すデータ提供が売り手側を不利にさせるものになってはならない。コーポレートガバナンスを強化する買い手側の経営者層がいくら法令順守を前面に掲げていても、実際の購買部と下請けの取引現場では不適切な取引が行われているケースも否定できない。社員へのコンプライアンス教育もより一層求められるのではないか。

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