脱炭素はモノづくりを変えるか

2022年5月23日

 日本において環境に配慮したモノづくりはどこまで浸透するだろうか。近年では気候変動の影響が顕著になっていることからも地球環境問題への注目が集まっており、産業界においては既に馴染みの言葉となった「EVシフト」も脱炭素社会の実現が動機の一つとされている。最近では鋲螺業界においても特に自動車関連メーカーを筆頭に「カーボンニュートラル(炭素中立)」という言葉を聞く機会が増えてきたが、その背景にはEUが現在改正案を検討している電池及び廃電池に関する規則の影響も多々あるのだろう。
 同改正案はEV向けを含む産業用電池を対象に生産プロセスからリサイクルに至るまでのライフサイクル全体を規定している。このうち二酸化炭素に焦点を合わせて見ていくと、将来は二酸化炭素の排出量を表示するカーボンフット・プリント(CFP)の上限値を定めるとしていることから実質的に排出量の削減努力が義務付けられるのは想定内であるとして、注目したいのは製造各段階で発生した二酸化炭素の排出量を示す証明書付きCFPの提出を義務付けている点である。詳細は今後明らかになると思われるが、ライフサイクル全体を規定している規則である以上自社の排出量のみで完結するとは考えられず、つまり将来は自動車関連産業に関わる幅広い企業が自社の二酸化炭素排出量を削減すると共に管理する必要に迫られることになると思われる。
 こうした動きが世界中に広がりかつ影響力を強めていった場合、サプライヤー選定の際にコスト・納期・品質といった各要素に加えて二酸化炭素の排出量も重要な指標になるというのはありそうな話である。またCFP提出の際、算出コスト最適化のためサプライチェーンを再構築する動きが出たとしても不思議ではないだろう。現状では「EVシフト」の存在から自動車業界が先行して取り組んでいるイメージが強いが、国内におけるここ数年の異常気象及び災害だけ見ていても気候変動問題の影響は決して無視できるものではなく次の数年で解決する問題とはとても思えない。これからは「(脱)炭素」を意識した経営を考えていく必要があるのではないか。
 しかし低炭素の取り組みが単なる負担以上を意味しない場合、特にリソースの少ない中小企業にとってカーボンニュートラルは格差を再生産する装置になるだろう。政府は本当に脱炭素を推進するのであれば補助金を出すだけではなく、脱炭素の取り組みに対して適正な対価が得られる土壌を作るため人々の意識改革を進めると共に予め不当な「炭素削減要請」を防ぐ手段を講じるべきだ。

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