今月中頃名古屋市内において「名古屋機械要素技術展」が開催されたが、コロナ禍が続く中行われたイベントとしては例外的と言っても良いほど多くの人で賑わっていた。主催者によれば3日間で合計1万8381人が訪れたとのことであり、前回比でおよそ3割強の増加となった。コロナ禍前に比べればまだまだ回復途上であるかもしれないが、製造業に関連したこのようなイベントにようやく活気が戻って来たことを嬉しく思う。
また、国内の新型コロナウイルス感染者数は「まん延防止等重点措置」が解除されてから増加傾向を見せてはいるも昨秋のような小康状態に向かいつつあると見て良いのではないか。しかし社会活動に活気が出てきている一方で22年の国内経済は力強さを欠いたまま上半期の終わりに差し掛かっている。
鋼材をはじめとした産業資材の高騰、コロナ禍による人手不足や投資意欲の減退に加えて現在およそ20年ぶりの円安水準に突入しており、今月15日には1㌦=126円台後半まで円安が進行した。かつての円安不況も踏まえてか「この円安が製造業を中心とした輸出関連産業に恩恵をもたらすのでは」と期待する声も一部見られるが、この先仮に円安が輸出を後押ししたとしてもその恩恵が国内全体に行き渡るかと言われれば甚だ疑問である。
鋲螺業界を見ていると昨年春先より始まった価格改定の動きは今年に入ってからも依然として続いており、終わりの見えない対応に疲弊する企業が数多く散見される。製品によっては昨年のコスト上昇分も十全に反映されていない、すなわち価格転嫁が認められていない現状で「恩恵」も何も無いだろう。
日銀の物価指数を見ると鋲螺業界にも関連する品目の中には前年比で倍になっているものも見られ、関連する事例として関係筋によれば輸入品のステンレス製ナットを見ると製品によっては前年比で単価が倍になっている商品もあるとのことだ。そのような中、従来通りの製品単価を維持するのはもはや不可能に近くこれは企業努力の範囲をとうに超えている。このような難局を一企業だけで乗り越えていくには限界もあるだろう。団体の声が力となって現状を変える一石となることを期待したい。
政府は「ワクワク割」で打撃を受けた関連産業を支援するのも結構だが、製造業、特に大企業と比べて体力の低い中小企業へもしっかりと目を向けて欲しい。「K字回復」などという言葉もあったが、製造業もまた苦しい状況に置かれていることに変わりはない。立場の弱い中小企業を守るべく、不当な価格転嫁拒否を強く非難するメッセージを発信するべきだ。