ロシアによるウクライナ侵攻を受け、世界は第二次世界大戦以来最大の危機に直面している。和平協議が続けて行われているが民間人の退避に関しては合意に達した一方で早期停戦の見通しは立たず泥沼化の様相を呈している。世界情勢はコロナ禍の影響により停滞感がまん延する状態が続いていたがウクライナ危機により極めて不安定な局面に突入したと見て良いだろう。
各メディアで報じられているように侵攻を受けて原油、パラジウム、アルミといった製造業及び各産業に欠かせない資源が高騰しており、金融面ではルーブルの暴落を受けて仮想通貨の価格が上昇傾向にあるという。なお鋲螺そのものに関しては財務省が公表している貿易統計による昨年実績を分析するとロシア・ウクライナ両国からの輸入は全体の総量から見ればほぼゼロに等しいが、輸出についてはロシアへ4000㌧強の輸出実績があることが分かっている(ウクライナは1㌧以下)。この数量は輸出全体に対して概ね1%を占めるもので、品目別では鉄鋼製ボルト(HS731815190)が全体のうち3000㌧と大半を占めている。自動車関連が多くを占めると思われるが、現時点で現地日系メーカーの生産が止まっていることからも影響が出てくるものと思われる。今後の動向には十分注意する必要があるだろう。
周知の通りウクライナ危機以前から各種資源は上昇傾向にあり、中でも鋼材価格は昨年の勢いをそのままに年初より高止まりの状態が続いていた。そこに加えて先月自動車メーカーが支給材の値上げを決めたことから、昨年に続き今年も鋼材価格の上昇基調が強まっていくものと予想される。資源を他国に頼る日本はかねてから輸出国の生産方針や産業政策など外部要因に振り回されがちであったが、ウクライナ危機が起きたことでその「外部要因」の政治的色彩が強まるのはおそらく避けられないだろう。ところでウクライナ危機についてはロシアの振る舞いを東アジア情勢に重ねる報道が散見される。東欧と東アジアは全く異なる歴史的文脈にあり安易な同一視は厳に慎まなければならないが、台湾は日本の主要なねじ輸入相手国の一つであり、中国は最大の輸入相手国である。経済と政治が複雑に絡み合った事例として米中の貿易摩擦が記憶に新しいが、平和から遠ざかれば遠ざかるほど「敵」が増え、人・モノ・金の自由な交通が妨げられてしまう。欧米先進国を中心に世界を巻き込んだ危機がどのような方向へ向かうのか、政治と経済がどのように交わるのか注意深く見守る必要がある。